嘘遊記4 緩箍咒

灰色をかぶった講堂が震え始めている、石化されたはずの百眼魔君から強烈な妖気が漂っている、妖気と空気が摩擦し、石の封印はこれ以上百眼魔君を封じることができない。金色の光は彼を捉えている岩から溢れている。

巨大な黄金のムカデは岩を突き破り、狭い講堂では彼の巨体を収めるはずがない、1000mほど長い体、体中には目玉で溢れている。

…………

多眼金ムカデ、このムカデの精こそが百眼魔君の本当の姿、全妖化をした彼はもはや出し惜しみはしない、暴食の妖はここで三蔵法師と孫悟空を喰らい尽くすことを誓う。

屋上から見下ろした悟空はあの巨大のムカデの姿を見て状況の厳しさを理解した、これほど巨大な妖魔であれば、一口だけで何十人も食い殺すことができる、学校内に残ってる人おろか、三蔵法師の命も危険にさらされている。

「緩箍咒?」彼女は全く理解できなかった。

「そうだ!こいつを大きくする呪文だ」悟空は自分の金箍に指をさした。

金箍の制約のせいで、孫悟空は全妖化をすることができない。

「私、知らないよ...そんな呪文聞いたことない!」

「そんなわけないでしょう。18歳になる日はお師さんの元神が覚醒する日でもある、天界の使者から3つのお経が送り届いていないのか?」

「えぇっ...言ってる意味がわかんないよ?せっかくの筋肉イケメンがこんな中二臭いこと言うのはちょっともったいないよ!」 あまりにも常識からかけ離れたことを聞かされて、未夢は頭を抱えた。

「兄貴!だからこのJKはただのアホで言ったんだろう!」小猿隊長は未夢と全く同じ動きで、頭を抱えた。

「これはまずい!ただでさえお師さんを守るのは大変なのに、それに加えてこんなに頭が弱いとは...」今、悟空は目の前が真っ暗になったような感じがした。

巨大なムカデは動き始め、周りを破壊し、倒れていく建物から激しい騒音がした、それと同時に、未夢の携帯からメッセージが届いた音がした。

「な...なんなのこれは?」知らない番号から3つのメッセージが届ている、その内容こそ今悟空が求めていたものだ。

「緩箍咒だ!お師さん!速くそれを唱えてくれ!」悟空は未夢の隣で画面を覗き、その知らない番号こそが天の使者である。

「あ...う...!」そして未夢はそのお経どおり唱え始めた。

悟空の頭の金箍それに合わせてどんどん大きくなった

「続けてくれ!」悟空は金箍のサイズを気にしながら、人を脅かす程の巨大なムカデを警戒している。

金箍は昔暴れん坊だった野猿を制御するために、釈迦如来から観世音菩薩に託し、観世音菩薩から三蔵法師にくれたものだ。それを悟空につけさせた三蔵法師は悟空の力を解放できる鍵となっている。

唐未夢は覚醒したばかりなので、解放の判断はもう反骨心のない悟空に任せた。

「もういいぞ!ここまでになったらもうぴったりだ!」そしてこの瞬間、大猿を解放する時がやってきた。

「全妖化!」悟空は飛び上がり、身にまとった鎧がぶっ壊れるほど急速に体が大きくなり、大猿の頭のサイズと金箍ぴったりなるまで大きくなり続けた。

18階建てビルと同じくらい高い大猿がこの地に降臨した。孫悟空と百目魔君、2つの妖が同じ全妖化の姿で勝負を決めようとしている。

「ほうぅぅぅ!」大猿は学生を食おうとしているムカデの頭を掴んでいた。

大猿の連続攻撃が金ムカデに当たり続けている、しかしムカデの甲羅は前以上に硬くなっていた、悟空の攻撃は通じなかった。

金ムカデはこの機に乗じて、逆に大猿の体に巻きついて、そのまま甲羅の圧力で悟空を潰そうとしている。

「兄貴は大丈夫かな...あのでけぇムカデは何回も三蔵法師の肉を食って力をつけていたんだ。」小猿隊長は不安ながらそう言った

「何回も食べた?それ、どういう意味なの?それに...なんであの化け物たちは私のことを三蔵法師と呼ぶの?腹筋男も私のことをお師さんとよぶし...」一歩間違えたら食べられた未夢はこの状況に対して疑問しか感じていない。

悟空は縛られていたが、まだ大猿のパワーで圧力に耐えられている、しかし多眼金ムカデのも目的はそれだけじゃない。

「百眼魔光を喰らえ!」ムカデの全身の目玉から金光が輝き、ゼロ距離で石化光線を悟空に打ち込むつもりだ。

「それは悪夢がずっと続いているからだ!お前の血と肉でどんどん妖魔たちを強化しているんだ!」小猿隊長は怒りを抑えられず、多眼金ムカデに怒鳴り散らした。

爆発したようにあたりは金色の光で輝いた、未夢と小猿隊長はその光のせいで目を開けなかった、光が点滅した後、そこに映ってたのは石にされた大猿の姿だけだった

「腹筋男!」未夢は叫んだ。その叫び声で百眼魔君の気を引いてしまった。

「今...もう俺を止める人はいない、頂くぞ!三蔵法師!」金ムカデは未夢の目の前まで迫っている。

「今度こそ、お前の元神を独り占めするぞ!」ムカデはその大きな口を開いた。

「あと少しだ、もうすぐで天の上奴らにも俺たちに敵わなくなるぞ!」三蔵法師の肉によって強化されている妖魔は百眼魔君だけじゃない。

「誰も...お師さんに触るな!」巨石から怒りの声がした。

「兄貴!」小猿隊長は知ってる、まだ悟空を諦めていないことを。

「本当にしつこい猿だ...」ムカデも感じた、悟空の妖力は激増している。

巨石にヒビが入った。そのヒビから炎が燃え上がろうとしている。

金ムカデはもう一度その体で巨石を縛り付けた、今度こそ巨石ごと孫悟空を握り潰そうとしている。

「もうこれ以上誰一人...お師さんを傷つけさせない!」縛られている悟空は石化を破り、全身で炎まとい、燃え盛っている大猿になった。

「野郎...」百眼魔君炎から身を引こうとしていたか、その長い体ではそう簡単に悟空から離せない。

大猿全身の力でムカデを抱きしめていた、その金色の甲羅が破れなかったのであれば火で燃やす、悟空は火攻めの策に出た。

「は...離せ!」百眼魔君がどう足掻いても、火の大猿は力を弱める様子は全くなかった。

「地獄に落ちろ、お前は地獄でもずっと燃え続けられ、お師さんが味わった苦しみを何倍以上に苦しめ!」温度は上がり続け、やがてその金色の甲羅は悟空によって燃えつけられた。

「早く離せ!このクソ猿か!」足掻き続けるムカデはただ悟空に掴まれたまま燃え続けてるだけだ...

その命が終わるまで、灰になるまで...

「腹筋男が勝った!」未夢は飛び跳ねながらそう言った。

「兄貴!」小猿隊長は屋上から飛び降りて、今すぐ悟空の元に向かおうとしている。

悟空も全妖化を解除して、ゆっくりと革の上着を着て、人の姿に戻った。

「百眼魔君...ようやく始末できた...」悟空は非常に消耗した、今でもまだ息を切らしている、金箍も悟空の頭の上で元の大きさに戻った。

「やったぞ!今回は一気に7体も妖魔を片付けた!これでようやくを任務完了まで大きく近づいた!」握手しながら祝おうとする小猿隊長。

「7体?妖魔は8体もいたんじゃないか!」悟空は屋上の方へ視線を向いた、未夢の真後ろに最後の1匹の蜘蛛の精が立っている。

盤糸洞は7体の蜘蛛の妖魔がいた、この中の3匹は講堂で殺され、まだ3匹は屋上で敗れた、そして最後にもう1匹が息を潜み、チャンスを待っていた。

「しまった!」悟空は地面を強く踏み、屋上に飛び戻ろうとした。

「お姉様たちの仇!」紫色の蜘蛛が口を大きく開いた。

その瞬間、銀色の光が瞬く、人の世にあらずの武器か天から落ちた。

「危うくまだ18年待たないといけなくなるところだぞ!油断しすぎだ、孫悟空。」武器の主人は声とともに人の世に降臨した。

白い肌に長い髪、スーツを着た眉目秀麗の男は彼のそばにいる白い犬と一緒に彼の持つ神器に近づく、「三尖両刃刀」。

「二郎神!」悟空は屋上に飛び戻った。この神將こそがこの二千年の間悟空と同じように三蔵法師の肉を食った妖魔追い続けていた存在だ。

「はい?孫悟空に二郎神!?一体どうなっているんだこれは?」突然起きたいろんな非日常な出来事によって、未夢は頭が裂けたような痛みを感じている。

「三蔵法師、君はちょっと休んだ方がいい、我々には後始末が残っている。」二郎神は未夢の額を軽く指差し、そして未夢は気を失い、悟空の方へ倒れていた。

二郎神は屋上から見下ろし、破壊尽くした校舎に異常に多い死傷者数、街中が騒ぐほどのビッグニュースになるだろう。

大量なパトカーが現場に着き、銃を持った警察もこの光景を見て驚きを隠せなかった、それに妖魔同士の戦闘目撃した生存者の人々、それらをどう処理するのか二郎神が言ってたこの件の後始末だ。

「お...おおおまえは何者だ!?」警察は空から舞い降りた二郎神に問い詰めようとしている。

二郎神は額にある第三の目を開き、彼らに向けて告げた。

「帰ってから報告書の上でWと書きなさい、どうしたら君たちの上司は対処してくれる。」二郎神は第三の目を使って、この場にいる警察たちを洗脳していた。

そして彼は校舎内に振り向き、生存者たちの記憶を自分の神眼の光で消した、この日は妖魔なんで現れなかった、あるのはただテロリストが仕掛けた襲撃のみ。

「まだこの手か、神の力で全てを隠蔽しようとしている...」孫悟空は二郎神の行動に不満があった、釈迦如来の計画は今だ世界を真実から遠ざけている。

「とりあえずここから離れましょう、この小娘にも説明は必要だしな」現場の後始末を終え、二郎神は唐未夢を先に安全なところに避難させようとしてる。

長い戦いはまだ始まったばかりだ、だが今回こそが最後の一回になるのだ。

それとは別のところで、三蔵法師の血肉を狙っていた妖魔たちも、三蔵法師の生まれ変わりがすでに覚醒していたことを知ったのだ。

………………………………

「また狩りの時間が始まりますね。」黒い女の影が長いソファの上でそう呟いた、彼女は尻尾をまるでサソリのようだ。

「百眼魔君は独り占めようとしていたから、こんな結末になるのはいいざまだぜ」巨大な牛の影が人間の手足を食い散らかしている。

「ただの猿ごときが、こんなにも長くの間俺の邪魔をしやがるとはな。」獅子のような黒い影は掃き出し窓から町の景色を眺めていた。

「猿を舐めるなよ、彼は俺と同じ、特別な存在だからだ」長い棒を持つ黒い影、額の上には金の光が反射していた。

「私にかかればあっという間に三蔵法師の肉を手に入れられるんでしょう、三蔵法師がまだ何も分からないうちに終わらせてやるわ、孫悟空にもう一度裏切られる感覚を覚えさせないとね~」人の頭蓋骨を弄んでながら立ち上がっていた、どうやら三蔵法師を狙う次の妖魔が動こうとしているようだ。


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