私の過去

 「山上さん、俺、一目惚れだったんです。諦めきれないので、ちゃんとつき合ってください。」彼から2度目の告白をされた。

 「ごめん、あなたと話すのは楽しいし、他に好きな人がいるとか、そんなことはないの。でも、私、怖いんだよね。」

 2年前、短大を卒業して病院事務をしていた。理由は単純で「お大事に」って言いたかったから。その病院で出会った人と付き合った。彼は優しかったし、いい人だったから、このまま結婚するんだと思っていた。だから、彼の転勤に合わせて病院事務をやめて、彼の地元で同棲をはじめた。でも、彼は優しい人ではなかった。仕事でミスをしたり、気に入らないことがあってストレスが溜まると私に手を挙げる。お酒が入ると人が変わるし、仕事でのストレスをすべて私で発散しようとしてくる。彼が、いつか包丁を持ってくるんじゃないかと怖かった。でも、周りに知り合いはいないし、同棲を許してくれた両親にも相談しにくかった。その後も、彼の私に対する態度はひどくなる一方で、逃げるように実家に戻ってきた。

 気付けば、私の過去を語っていた。絶対誰にも話さないと決めていたのに、お酒も飲んでいないのに。なんでこんな暗い話してしまったんだろう。彼といると私のペースが崩される。彼は黙って話を聞いてくれた。いや、衝撃すぎて反応できなかった方が強いと思う。

 「ごめんね、こんな暗い話して。びっくりしたでしょ。あなたは、優しくて、気遣いできて、しっかりしてて、いい人。でもね、あなたが優しい人だからこそ、怖いの。また裏切られて、傷つくのが嫌なの。だから、だから、、」

 突然、彼の温かい腕で包み込まれた。優しすぎる。私は2回も彼の思いを無下にしてるのに。

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