個展
次の日、彼はずいぶんと明るい雰囲気でお店に来た。気まずくならないか不安だったが、その不安は私にしかなかったみたいだ。今まで通り、営業中の会話は業務連絡だけで、閉店後には話をした。閉店後のこの時間を楽しみにしている自分もいた。それからは、月に1・2回、彼とご飯に行くようになった。
ある日、彼はある画家の絵を見せてきた。一目惚れした。ちょうちょうが群れで飛び、クジラの姿をなしている。細かい筆遣い、柔らかな色味、そして、私の大好きなキャラクターが紛れ込んでいる。絵から感じ取れる作者の易しい性格と、遊び心に魅了された。次に見せてくれたのは、少し強面の男性の絵だった。画家さんの自画像らしい。見た目と絵のギャップで更に魅了された。彼は、私がこの絵に惹かれるとわかっていたのだろうか。個展があるらしく、一緒に行くことになった。
個展の会場までは電車で1時間ほど。会場にはいろんな絵があった。麦わら帽子をかぶった子どもが田んぼ道を走っている絵。ゾウやキリンが楽器をもってマーチングしている絵。夜に咲くひまわりの絵もあった。どれも素敵だ。この人の作り出す独特の世界に引きずり込まれていくのを感じた。彼は、一言も喋らず、ただひたすら絵を見ている。彼も私と同じ世界に入り込んでいるのだろう。会場はそんなに広くないので、私たち含めて6・7人しかいない。画家さんも在中していて、知り合いと思われる人とお話をしていた。1時間は経っただろうか。会場には私たちと画家さんの3人になった。「神原さん!お久しぶりです。今年も来ちゃいました。」突然、彼が画家さんと話し出した。やけに仲良さげに話している。私が不思議そうな顔で2人を見ていると、「あれ、ごめん、言ってなかったっけ?画家の神原さん。両親のキューピットでしたっけ?」「結果的にだけどな。こんにちは。神原です。来てくれてありがとう。」
状況が全く理解できない。(彼と神原さんは知り合いで、彼の両親のキューピット?なんでこんなに重要な話を教えてくれなかったのか。あえて隠していたのか。それとも、そこまで重要な話でもなかったのか。)考え出すとキリがなかった。
「なんで見に来てくれたの?好きな絵ある?」神原さんは私とも話してくれる。動揺していてまともに答えられなかったが、これだけは伝えた。
「一目惚れしたんです。」
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