美琴の日記
10月某日。
今回のは本当に、心に来た。だけど、ここにはなにがあったのかあんま書きたくない。記録として、残したくはない。
自分がたまに怖くなるときがある。
どこまで行ってしまうんだろうか、と。
こんな姿、他人には見せられない。
あー、こんなことわざわざ書いちゃうなんて、アタシ、メンヘラみたい。
あ、メンヘラか。精神科でも、結構ヤバい状態だって言われたし。
なんでこんな風になっちゃったんだろうか。
アタシはカーテンを開けて、その日、なんとなく窓から星を見上げた。
きれいだな……。
隣人も同じ星空を見ているのだろうか。
たしか、同じ学校の人だったと思う。何度かマンションの廊下とか、校舎の廊下とかですれ違っている。同じ学年の人だ。体育の授業で何回か目にしたことがある。
あの人……周りに言いふらしたりしないかな。
けど、なんとなくあの人なら言いふらさないだろうな、って感じがする。
どこが大人びていて、ちょっとかっこいい。素っ気ない。クール。そんな言葉が似合う人だった。
ちょっとたって、アタシは戦慄した。なに、この部屋。
前言撤回。マジでかっこいいとか思ってた自分が馬鹿馬鹿しくなる。
生活能力なさ過ぎない!? って言うか、食べる物カップラーメンとコンビニ弁当って。フリーターの食事じゃないんだから……。
あぁもう! イライラする!
アタシはその部屋を片付けることにした。あの隣人、あたしに指示されないと動けないタイプの人だった。
かっこよくて判断力のある人かと思ってたけど、こと家事に至ってはなかなかどうしてポンコツだ。
……んま、そこがちょっと彼の面白いところではある。
なんていうか、人間味がある姿を見られた、っていうか。
何日かして、交通事故に遭いそうになってた子どもを助けた。
本当にあぶない。死ぬかと思った。
アタシが子ども達を見送ると、彼がやって来た。隣人の彼。クールなくせにどこかポンコツの彼。
「ケガを見せてみろ」
っていわれた。べつにこんなん大したことないのに、彼はアタシの手当てをしてくれた。
一応、お礼は言っといた。
言ったわよね? あれ? ちょっとよく覚えてない。
生足に絆創膏を貼ると、見栄えがよくないって言う理由で、ジャージのズボンを貸してくれた。嬉しいんだけどさ、こ、これちょっと大きすぎない!?
まぁいいわ。あんがとさん。
翌日、アタシはわざとジャージのズボンを返すのを忘れた。アタシが料理を持って行く理由をつけるため。
遅れたお詫びとして、彼の部屋にタッパに分けたビーフシチューを持って行った。
あいつ、食事とかいかにも栄養バランスの悪そうな者食べちゃうタイプだから、少なからずアタシができることをしてやろうと思っただけ。
アタシの料理をおいしいと言ってくれる人は、なかなかいない。
食べてもらえる人が少ないのもあるけど、……正直自信がなかった。
けど、あいつはおいしいと言ってくれた。だから作ってやりたいと思った。
ただそれだけの理由。
あいつはアタシの料理を食べて、嬉しいと思ってくれているだろうか。
だとしたらアタシも嬉しい。ケドもしかしたら、迷惑と思っているんじゃないか、とも思ってしまう。
アタシがあいつの部屋の掃除をしたとき、あいつはいやな思いをしなかっただろうか。
アタシは女で、あいつは男だ。だからアタシがあの日、あいつの部屋の掃除を手伝ったりなんかして、本当によかったんだろうか。
わからない。
あいつの本心は、アタシにはわからない。もしかしたら嫌われてるんじゃないか、お節介だって思われてるんじゃないか、そんなことをつらつらと考えてしまう。
……はぁ。
ダメだってわかってるのに。また気分が落ち込んできた。
今日は薬を飲んで寝よう。そして朝起きて、学校に行けば、いつものあたしの戻れているはずだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます