もしも自分が

板谷空炉

あの人に、見つかりたくないので。

 もしも自分が優秀だったなら、

 あの人と同じ進学先にしたかった。

 でも自分には、学力が足りなかった。

 差が歴然としていた。

 加えて、そう思ったのはもう秋のこと。自分では巻き返すことは不可能だった。


 故郷へ向かうとき、

 あの人が過ごした街を通らなければ帰ることが出来ない。

 あの人が、青春を送った街を。

 何故なら、そこが一番の都市だから。

 学び舎が多く集い、学生も多く集う。

 それはつまり、結婚もまだ考えずに、現在の感情のみで付き合うことが出来るということ。そのような人が多いということ。


 自分には、あの人に当時好いた人がいたかは分からない。でも、青春を共にした人に、比較的何も気にせず遊びに誘えた人に、そして、知ることはないであろう、あの人が恋した人に。

 全てに嫉妬してしまう。中心市街地を見るだけでその感情に駆られる。


 ああ、本当にあの人が好きなんだ。

 決して伝えることも、伝わることも、今後関われることも無いだろう。

 でも、次に恋する時が来るまで、

 あなたを好きでいさせて下さい。

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もしも自分が 板谷空炉 @Scallops_Itaya

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