第54話 地獄のお祭り
「魔王は本当にかわいいな!」
「く、クロウも素敵だと思うぞ」
そんな応酬に、魔王が少し手慣れてきた頃、天界のお祭りの季節がやってきた。
「今年は、地獄でも祭りを行うことで、天界に行けない鬼たちや魔族たちにも楽しんでもらおうかと考えている。テラスが考案してくれたのだ」
「いいっすね! うまいもん、食いてぇっす!」
「わ、我も我の配下七魔族たちも喜ぶと思います」
「では、準備はほとんど私の地獄に関与する魔法ですむと思うが、細かい食べ物の発注等をクロウと魔王に任せたい」
「はい!」
「承知いたした」
「テラスはこっちで、私の魔法を手伝ってもらってもいいか?」
「はい」
分担し、祭りの準備に取りかかる。
「く、クロウ、そんなに食べ物は必要か?」
「鬼たち、よく食べるだろ?」
「いろんなものをたくさん用意した方がいいのではないか?」
「それもそうだな! あ、当日、魔王は配下と回るのか?」
「いや、まだ決めておらぬが」
「じゃあ、俺と回ろうぜ!」
「ということで、当日一緒に回ることになったのじゃが」
「いいじゃないですか! とびっきりかわいい格好で行きましょう!」
魔王からの報告に、テラスは嬉々として喜ぶ。
「じゃあ、ミコに何か服を送ってもらいましょうか? 天界には、豊富にあるはずです」
「い、いちおう、こんな日のためにと配下七魔族で準備していたものもございます」
そういって、雪の魔族が取り出したのは、光沢の輝く、淡いピンクの美しいワンピースであった。
「わ、わ、我に黒以外似合うわけが、ふぐっ」
「失礼いたします。お着替えですよ、魔王様」
慌てふためく魔王を無視し、テラスと雪の魔族が着替えさせる。すると、そこには美少女が現れたのであった。
「この衣装に魔王然とした角や羽……ギャップが犯罪感を醸し出しています」
「配下七魔族で魔王様に似合うものをと作りましたが、こんなにもお似合いになられるとは……」
感涙を流す雪の魔族を横目に、真っ赤に染まった魔王は、その場にへたり込んでしまった。
「おい、魔王ってこのあたりに……って、うわぁ!? か、かわ。き、きれいだ。すみませんでした!!」
魔王を探しに来たクロウが、魔王の格好を見て、真っ赤に染まって逃げて行ってしまったのも無理はないだろう。
「あれは……脈ありですね」
「大ありだと、配下ながら断言させていただきます!」
「うぅぅぅ」
「わ、悪い。その、見るつもりはなくて。……かわいかった」
「うぅぅぅ」
---お祭り当日
「ディラン様。では、私たちも参りましょうか」
「テラス。良く見せて。とってもかわいいよ。テラスのためだけに作られたかと思うかわいさだね」
「ディラン様……お祭りを回る時間がなくなってしまいます」
「そうだね、ごめん。じゃあ、行こうか」
そう言ってテラスをエスコートする地獄の神は、満足げであった。
「ま、またせたか?」
「いや。待ってねぇ。その、こないだも言ったけど、とっても似合っているし、すっげぇかわいいと思う」
「そ、その、ありがとう。く、クロウの服もいつもの雰囲気と違って似合っておるぞ」
「ありがとう」
そう言って、どちらともなく手を重ねたふたりは、お祭り会場に向かうのであった。
「そ、その。クロウから好意を伝えられて、我の想いも伝えることができたぞ」
「「「……おめでとう!!!」ございます!!」」
翌日は休日のため、女子会を予定していた。
集まった面々に、魔王が照れたように報告する。
「その、みなのおかげじゃ」
「いや、最初から魔王さんのかわいさにやられていた節はあったよね」
「ね! でも、突然こんなかわいい子が同僚になったら気になると思います!」
「我らが魔王様は、大変愛らしいです」
「実は、私からも報告があります」
「テラスから? なになに?」
「なんじゃ?」
「なんでしょうか?」
「その、ディラン様と私の子がもうすぐ生まれます!」
「「「ええええ!?」」」
おめでとう、と騒がれたテラスは、遠慮がちにもみくちゃにされながら、幸せそうに笑うのであった。
天界に戻ったミコが、恋愛の神に報告し、大騒ぎになり、その騒動でテラスの妊娠を知った最高神と地上の神が大量の贈り物を地獄に送りつけた。そうして、テラスと地獄の神の子が生まれる頃に、ミコと恋愛の神の子の妊娠も発覚し、そちらもまた大騒動になるのであった。
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