第49話 クロウの出会い
「この書類……」
「あぁ、我が終わらせておいたぞ。配下の者たちは、鬼の業務を引き継ぎ、現場に行っておる。あと、必要かと思って改善案も出しておいたぞ」
「さすが魔王だな! 助かる!」
「そ、そ、そ……そんなに我を褒めても何も出ないぞ!」
書類をとんとんしながら、魔王は満面の笑みを浮かべている。それを見たクロウは、思わず噴き出した。
「お前、仕事はできるし、魔王としての実力はあるけど、ちゃんと女の子なんだな!」
「お、おんなのこ!?」
顔を真っ赤にする魔王の頭に手を乗せ、クロウは去っていく。
「じゃあ、ディラン様に書類提出と報告にいってくるな!」
「わかったぞ……女の子……」
魔王はぽつんとそう呟き、顔をたたいて気合を入れなおした。
「我は、敗戦した捕虜じゃ。クロウのためにも頑張って仕事を終わらせるぞ」
「魔王様!」
魔王が、鬼と配下七魔族のいる各種地獄を見て回っていると、声をかけられた。
「雪の魔族! 久しいな。現場仕事を任せっぱなしですまない。問題はないか?」
魔王の配下七魔族は、その名の通り七つの属性を司っている。
「この地獄、労働環境が最高です! あ、もちろん、魔王様の下で働いていた時も最高でしたよ!」
「……気を使わせてすまないな。この地獄を見てから、我も己の力不足を再認識したぞ」
「魔王様……。私は、魔王様の下で働けて、いえ、我ら配下七魔族全員、魔王様の下で働くことができて、幸せでした。今も、実際は魔王様の下で働くことができていますし、ね?」
微笑みかけてくる雪の魔族に、魔王は嬉しそうに微笑む。
「我も、皆と一緒に働くことができて、うれしいぞ!」
「あ、魔王ー」
「ひゃっ!? く、クロウ……」
遠くから魔王を呼ぶクロウの声に、思わず魔王が飛び上がり、それを見た雪の魔族は、不思議そうに首をかしげる。
「改善案、よかったぞ! ディラン様も褒めていらっしゃった」
そう言いながら、クロウが魔王の頭をがしがしと撫でまわす。
「な、き、気安く我の頭を撫でるな!」
「ん? あ、すまないな、つい、かわいくて……。俺、女の子の扱いが悪いって恋愛の神に怒られたことあるんだよなぁ……」
そう言いながら、戻っていくクロウの後ろ姿を見つめる魔王の姿に、雪の魔族はにやにやと笑みを浮かべる。
「ふーん……」
「な、なんじゃ?」
「なんでもありませーん」
そういって、雪の魔族はぼそぼそと独り言をこぼす。
「魔王様、ああいうのが好みなんだ。これは、配下七魔族の緊急招集をかけないと! いざってときは、テラス神に相談しよう……勇気を出して」
「じゃ、じゃあ、我は執務室にもどるぞ」
「あ、はーい。じゃあ、クロウ様と仲良くお過ごしくださーい!」
「ふぁ!? な、仲良くとな!?」
「お仕事仲間なんだから、仲良くしたほうがいいんじゃないですかー? それとも、何か想像なさったんですかー?」
「し、してない! 我は断じて、クロウに変な懸想など、しておらんぞ!」
走り去っていく魔王の姿に、雪の魔族は笑みを湛えながら、反省する。
「魔王様があんな風になるの初めて見たから、からかいすぎちゃったかも。これは、配下七魔族で全力バックアップだ! 鬼さん! 休憩返上で働くので、今日早く上がらせてもらえますか!?」
「別に今日の業務は落ち着いているし、時間給取って上がってもいいぞ?」
「ありがとうございます! さて、魔王様の配下七魔族大集結としますか!」
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