第48話 魔王討伐のその後

「魔王討伐、終わりましたね……」


「討伐と言っていいのでしょうか?」


 魔王の全面降伏宣言を受け、勇者アウグスとその一行の魔王討伐は終了した。


「世間には、魔王を倒したといえばいいのでしょうか?」


「この世界には存在しないから、そういっても問題ないと思うぞ」


 元怠惰の神と勇者アウグスは相談する。


「じゃあ、私とテラスは地獄に戻るよ」


「早くありませんか? 慰労会をしたかったのですが……」


「早くテラスとイチャイチャしたいし、活きのいいうちに魔王たちを地獄に運ばないといけないから」


「ディラン様。魔王さんたちは、魚かなにかではありません」


「わかっているよ、テラス。すまない」


 テラスの頭をやさしくなで、微笑みを向ける地獄の神は、拘束した魔王とその配下七魔族を放置し、会話を続けた。


「慰労会もいいけど、ここはもう、テラスの世界だ。いつでも来れる。今は、魔王たちを地獄に連れて行って、勇者アウグスたちは魔王討伐を知らしめ、銀髪への忌避感を払拭したほうがいい」


「……地獄の神がそこまでおっしゃるのなら、俺たちは魔王討伐と銀髪の有用性を宣伝して回ろう、アウグス。……まぁ、テラス様といちゃつきたいんだろう。邪魔するわけにはいかねーよ」


「元神様。では、また僕たちの世界にいらしてくださいね?」


「また、きますね」


「また、来るよ」


 そう言って、魔王たちを連れて地獄の神とテラスは戻ったのだった。


「では、魔物の残党を討伐しながら、街に戻りましょうか、元神様」


「アウグス、お前は人間たちにあんな目に遭わされたのに、人間たちのために魔王討伐をするなんて……いい子だな」


「そんなことありませんよ。父さんと母さんが僕を守ってくれたから、元神様も契約があるとはいえ、こうやって僕を守ってくれるから……そういう人もいると思って、そんな人たちと未来の銀髪の子とその子孫のために頑張っているだけです」


 がしがしと勇者アウグスの頭を撫でた元怠惰の神は、勇者を伴って人間の住む街に戻ることとしたのだった。


「じゃあ、勇者様の凱旋といくか。思いっきり飲み食いしてやろう」


「飲みすぎないでくださいね」




















「テラス、おいで」


「はい、ディラン様」


 自分の隣をポンポンと叩き、テラスをそばに寄せる地獄の神は、優しくテラスの神に口づけを落とす。


「お疲れ様」


「ディラン様もお疲れ様です」


「魔王は討伐しなかったけど、疲れただろう。癒してあげよう」


 そういって地獄の神は、テラスを横たわらせ、癒しの魔法を少しずつかけていく。


「ディラン様、浄化だけでなく癒しの魔法も使えたんですか?」


「テラスが勇者アウグスに教えているのを見て、少しだけ覚えたんだ」


「ありがとうございます。気持ちいいです」


 ちょっとずつ疲れが取れていくテラスは、うっとりとして眠りかけた。


「テラス」


 そういって、テラスの顔を見つめた地獄の神が、口づけを落とそうとしたところ、扉の外からクロウの声が響いたのだった。


「ディラン様! 最高神へ報告に行ってください」


 扉を魔法で開きながら、地獄の神は反論する。


「……クロウ、もう少しだけ」


「ディラン様。いちゃいちゃが止まらなくなる前の段階で、先に大切な仕事を済ませてください」


 一括された地獄の神は、テラスに声をかけながら立ち上がった。


「……仕方ない。ごめんね、テラス。我慢できるかい?」


「が、が、我慢なんて、してませんので、どうぞいってきてくださいぃ! クロウ様、ありがとうござい、ます」


 真っ赤になって、うずくまるテラスに、地獄の神を引っ張りながらクロウが声をかける。


「テラスを助けられたなら、よかったぞ」


 助かったと思いながらも、少し残念に思う自分に、テラスは悩みながらお布団を探し、頭から被ってうなり続けるのであった。

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