第46話 二回目の魔王討伐
「ふはっはっはっ。我こそが魔王……」
いつの間にかできあがっていた魔王城。そこにたどり着いた銀髪の勇者アウグスのパーティー。
地獄の神ディラン、世界の女神テラス、元怠惰の神、勇者アウグス。異様な面々の姿を確認し、魔王は動きを止めた。そして、そっと側近を呼び寄せる。
「ねぇ。これって、本当に勇者……というか、人間? 勇者ですら異様なオーラ放っているんだけど」
「一応、人間の世界で勇者と呼ばれる存在のようですが……」
「絶対に勝てないと思うんだけど、普通の魔物たちは、彼らにけんかを売っていたの?」
微かに震えながら、魔王は側近に問いかける。
「普通の魔物は、知能が低いので、実力差を感じても戦わざるを得なかったのでしょう。好戦的な性質ですから」
「……白旗上げていい?」
「お止めすべきでしょうが、勝てる気がしませんので、私は何も言いません」
そんな側近との相談の後、魔王は神妙な表情を浮かべ、口を開いた。
「……遠路はるばる、魔王城までよくぞいらっしゃった。精一杯おもてなしさせていただくので、ゆっくりとおくつろぎいただき、ご帰宅願えるでしょうか?」
「……一応、魔王討伐にきたので、それは難しいかと」
代表して、勇者アウグスがそう声を発する。黙っている神々に、魔王たちは恐れおののいている。
「……荒事を避け、平和に解決できたらと思っているのだが、配下七魔族を集めて会合を開かせていただけないだろうか……武器は提出させていただきますので」
魔王のそんな様子に勇者パーティーは目を見合わせて、検討する。
「そんな言葉を受けて討伐すると、勇者とは思えないだろう。では、武器をその側近に持たせて全員分提出してもらおうか? 念のために、この場で魔族が無力化できるような魔法を展開させていただいてもいいだろうか?」
勇者アウグスは、そう言いながらテラスに視線を向ける。こくりと頷くとテラスに準備は整ったようだ。
「もちろんだ……むしろ、お願いします」
そう言った魔王は、配下七魔族を呼び出した。
「魔王様ぁ? 勇者パーティーとの戦いは、混ざるなって……」
呼び出された魔族は、当初不満げな様子を見せるも、その場の異様な空気に気がつくと、神々の力を悟って即座に無力化を受け入れていった。
「争いを避けたい」
「「「御意」」」
魔族たちの反対はなかった。
「地獄の神、テラス様、どういたしましょうか?」
「この世界から魔王を討伐しないわけにいかないですよね?」
「そうだな……」
「あの、以前、クニヒト様の世界の魔王は、躊躇なく戦ってきましたが……」
「今回の魔族は、あれよりも知能が高いのであろう。あの魔王に、命乞いの時間がなかったともいえるが」
「魔王たちが嘘を言っている可能性は……?」
勇者アウグスの言葉に、元怠惰の神が応えた。
「ないでしょう。これだけの神の力。特に、地獄の神という高位の神のお力。抗おうとするものは、ある程度追い詰められた愚かなものだけだろう」
「……元怠惰の神。ディラン様に逆らっていたご自身にブーメランでは?」
「反省しております」
「いまや、テラスも女神だし、ね」
しみじみとしているところで、テラスがふと思いついたように口を開いた。
「……地獄で働いてもらうわけには、いきませんかね?」
「というと、?」
「以前、鬼さんたちが反乱を起こしたので、人員が不足しているじゃないですか?」
「そうだね」
その騒動の一因である元怠惰の神は、小さくなっている。
「そちらに魔族さんと魔王さんに入ってもらえば……」
「まぁ、いいかもしれないね。必要に応じて消滅させてもいいし、魔王ほどの実力なら、地獄の淀みにも打ち勝てるだろう。従属の儀式でもすれば、逆らうこともないだろうし」
「と、いうことで、地獄で働いてもらうのは、いかがでしょうか?」
勇者に代わって、テラスが交渉に入った。魔王とその配下七魔族たちは、顔を見合わせて頷き、魔王が回答するのであった。
「ぜひ、よろしくお願いいたします。精一杯業務に従事させていただきます」
「この世界の魔王は発生して間もないこともあって、人間の虐殺等はまだしていなかったようだからね。このまま地獄で働いてもらっても問題ないだろう」
思いついたかのように口を開く地獄の神に、魔王とその配下七魔族は、こくこくと頷いていた。
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