第45話 元勇者、勇者になる
「テラス、アウグスの教育はどんな調子だい?」
「いい感じで浄化魔法を使うことができるようになってきています。では、アウグス。身体の中から力をどーんと感じて、ばーんと外に出してください」
「……テラス?」
「はい! テラス様。こうですね!?」
「惜しいです!」
「……元怠惰の神。もしかして、テラスは教育が苦手かい?」
「いや、新人教育も担っていて、評判も良かったはずですが……」
「もしかして、感覚で浄化魔法を使っているから、説明が苦手なのか?」
「そうです! ばーんと!」
「はい、テラス様!」
「……念のため、念のためだ。元怠惰の神は剣の腕が良かったと記憶している。アウグスに剣術も教えておいてくれないか」
「御心のままに。迅速に教育計画を練らせていただきます」
「剣に浄化魔法をまとわせるのもいいですね」
「そういえば、元怠惰の神は教えるのがお上手でしたものね」
「部下を教育して丸投げすることが一番の業務効率化だと思っていたもので」
「でも、私の教育もなかなかなものでしょう? ディラン様?」
「……。アウグスは剣術も魔法も習得が早いな」
「ありがとうございます!」
「……ディラン様?」
「その、テラスも頑張ってくれて、助かっているよ」
「はい!」
ディランの膝の上に乗せられたテラスは、頭をなでられて満足げだ。
「ディラン様にテラス様。アウグスの教育に良くありません。いちゃいちゃは二柱きりの時以外、控えていただきたい」
「「い、いちゃいちゃ!?」」
「二柱とも無自覚でいらっしゃいましたか」
「以後、気をつけます」
「気をつけるとしよう」
「では、アウグス。お願いします」
「浄化!」
テラスのかけ声で、魔物討伐を成功させた。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
「その……」
「いいんです。銀髪は勇者の才能があるものだと理解して、広めていただけると助かります」
「アウグス、偉いですよ」
「ありがとうございます、テラス様」
初めての魔物討伐依頼に成功した勇者アウグスのパーティーは、各地で魔物討伐を進めていった。同時に、銀髪への悪いイメージを払拭し、世界の滅亡を回避するためにつき進んでいったのであった。
「いかがでしょうか?」
「いつの間にか、元怠惰の神がアウグスに剣術を教授していました……。私の教えた浄化魔法を上回ってます」
「実際に剣術に浄化魔法をまとわせることで、手応えなく倒すことができていますよ? テラス様」
勇者アウグスに励まされたテラスは、のそのそと動き、アウグスのことをなで回すのであった。
「アウグスはいい子に育ってくれて、嬉しいです」
「テラス」
アウグスとの距離感に、地獄の神が注意する。幼子といえども異性、それも前世でテラスに恋慕していた---アウグス自身は覚えていないといえども---元勇者だ。
「ディラン様?」
「アウグスにひっつきすぎだ」
「ふふふ、アウグスは私の世界の子供。簡単に言えば、私たちの子供のようなものではありませんか?」
テラスのそんなセリフに、地獄の神は固まった。思わず、抱き上げたテラスを落としてしまいそうになりながら、そっと地面に下ろす。
「私たちの子供……」
「地獄の神、大丈夫ですか?」
テラスは、アウグスを愛でに戻り、固まっていた地獄の神に対して、元怠惰の神が遠慮がちに声をかけたのであった。
「私たちの子供か……元怠惰の神よ、そう見えるか?」
「えぇ、それはもう親子かと見紛うほどです、はい」
「ふふふ……」
勇者アウグスも十歳となり、魔物も多く討伐した。
魔法使いであり、大聖女の守護者(地獄の神)、大聖女(テラス)、勇者(アウグス)、勇者の師匠で剣士(元怠惰の神)というメンバーの勇者パーティーは、世界に名を馳せていた。
”銀髪の勇者パーティー”と呼ばれる彼らは、この世界の女神テラス神に愛されており、瞬殺で魔物を屠る。
まずは、大聖女テラスの力で有象無象の小さな魔物たちを浄化魔法で屠る。
取り逃がしや大聖女を狙った魔物は、魔法使い地獄の神に瞬殺される。
強い魔物やボスは、勇者アウグスによって倒される。そんな勇者の師である剣士は、守護者のように勇者を守る。
あまりの強さに、大聖女自身が女神の化身では?という噂も流れるほどだ。
今日も彼らは、銀髪は勇者の力があると知らしめるため、魔物を屠り続ける。
「テラス。私たちの子供が生まれたら、兄であるアウグスにも会わせてあげないとね?」
「地獄の神、お願いですから、魔王の討伐を終わらせてから、子をなしてくださいね?」
地獄の神の言葉に、元怠惰の神は焦ったように止めを入れる。
子育てで魔王討伐が中断されてしまうことを恐れたのか、多感な年齢に入る勇者を慮ったのか……おそらく、後者であろう。
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