第42話 地獄での結婚式

「おめでとう、テラス! ディラン様!」


「お姉様!」


「鬼の……ありがとう」


”鬼の姉御”とクロウが呼ぶ、鬼とその仲間たちが挨拶にやってきた。嬉しそうな彼女たちは、豪快に酒を飲み交わす。


「テラス……もう、テラス様とお呼びしないとだねぇ。ほら、一緒に飲もう!」


「今まで通り、テラスとお呼びください、お姉様!」


 みているだけで泥酔しそうな勢いで、飲み合う二人を周囲は一歩引いて見守る。


「テラス……あんた、すごい酒が強いね……」


「そうでしょうか? でも、お姉様もお強いと思います」


 鬼の姉御との飲み比べに、テラスは勝利してしまったのだった。







「姉貴の敵、私が取らせてもらうよ!」


「望むところです」


 酒に強いはずの鬼たちを次々と潰していくテラスは、広義の意味で地獄の天下を取ったのだった。




「テラス……強すぎるだろう」


「そんな花嫁のことが頼もしく思うよ」


「ディラン様……」





 美しい純白のドレスに煌めく宝石、その横に横たわる鬼たちの死屍累々。

 満面の笑みで酒を飲み進めるテラスとそんなテラスをうっとりと見つめる地獄の神。

 これぞまさしく地獄だ、と呟いたクロウのセリフと共に、”純白の鬼ごろし”として、知らぬところでテラスは名を馳せるのであった。












「天界での結婚式も地獄での結婚式もとても美しかったよ」


「ありがとうございます」


「他の者の目に入らないように、囲ってしまいたかったけど、私のテラスがこんなにもかわいいんだと自慢もしたくて、はじめての心境だったよ」


「ディラン様こそ、大変美しくて、お隣にいるのが私で大丈夫か不安になるほどでした。まぁ、別の方にディラン様のお隣を譲るつもりはないのですが」


「……テラス!」



 そう言って、地獄の神はテラスを抱き寄せ、髪に口づけを落とした。




「ディラン様、お取り込み中失礼いたします」


 手慣れた様子で、クロウが二人の会話に割り込む。ここは、結婚式翌日の執務室だ。


「どうした?」


「元勇者の世界で魔物が再発生しているようで、最高神から一時的にディラン様とテラスを派遣しろ、とのことでした。なお、この派遣の執行に伴い、正式に地上の神からテラスにこの世界の監督権限を移行し、テラスの世界とする、とのことです。”昨日は、さすがに結婚式当日だったから、宣言はしたものの、実際の監督権限等はうつっていなかったからねぇ”との最高神のお言葉だそうです」


「……仕方ない。テラスと一緒なら面倒くさい出張も楽しみだな」


「念のため、魔力の増強剤も持って行きましょうか?」


「そうだね。では、地獄のことはクロウに任せるよ。結婚式もあって、重要な仕事は済ませてあるから、長期に抜けても問題ないと思うよ。それよりも、テラスの世界の方が大変なことだと思うからね」


「昨日、外注の大規模浄化をしたばかりなのに、また騒動が起こっていますからね」


「元勇者が転生したのだから、この世界がその影響に引きづられているんだろう。バランスを保つために、魔物の活性が上がっているんだと思うよ。だからこそ、彼は忌み子と言われるんだ」


「そうだったんですね……。彼が強く大きく育ったとしても、そんな世界に嫌悪を抱いてしまうかもしれませんね。仕方ありません。私たちで保護し、正しく育て上げてあげましょう」


「テラスとの結婚後初めての共同作業? いや、子育て……」


「な、何をおっしゃっているんですか、ディラン様」


「二柱して照れていないで、さっさと引き継ぎして、そっちの世界の業務を終わらせて戻ってきてください」


 二柱で真っ赤になって照れ合っている姿を、クロウが一括する。”向こうの世界である程度ツッコミ入れてくれる人がいないと、ずっといちゃついているんじゃないか?”と、クロウは危惧するのであった。

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