第41話 地獄での結婚式のその前に

「地獄の神ー!」


「どうした?」


「結婚式当日の朝に、申し訳ありません……」


「地獄での結婚式は夜だから、時間はあるのだが……」


 寝起きのためか、気怠げな地獄の神にクロウは頭を下げる。


「テラスが呼ばれています」


「誰にだ?」


「最高神です」










「ごめんねー? 昨日ぶり」


「本日も地獄での結婚式を控えているんだが、何があったんだ?」


「前に元怠惰の神を封印した世界、あったじゃん?」


「はい……」


 会話に置いてきぼりであったテラスが、慌てて参加する。


「あそこの世界でトラブルがあったみたいで……あそこの世界も結婚祝いでグラーシスからあげちゃうって言ってたから、受け取って夜までになんとかしてくれない?」


「そんな無茶な!?」


「ごめーん。私も地上の神として、いろんな世界を管理してるんだけど、手一杯なところもあって……。あの世界の人たちもテラスちゃんを女神として奉ってるし、あげちゃう♡」


「……謹んで、お受け」


「断ってもいいんだよ、テラス。この神たちは、理由をつけて君に仕事を押し付けているんだ」


「あの世界のおかげで私は女神となってディラン様と結ばれることができました。あの世界を救いたいです」


「テラス……」


 感動して見つめ合う二柱を横目に、おっねがいねーと言って、地上の神は去っていった。


「夜までに終わらせるために、ぱぱっとやっちゃった方がいいんじゃない?」


「ところでどのような問題が……」


「うーん……簡単に言うと、害虫駆除?」










ーーーー

「なんなんですか! この世界!」


 テラスが聖なる力で害虫と言われた魔物ーーーといっても虫型なのだがーーーを消滅させ続ける横で、地獄の神が必死にテラスを宥める。


「なんでカマキリがこんなにも巨大化して、人を食べているんですか?」


「栄養が豊富だったんだろうね……」


「あの元怠惰の神と元勇者の少年は!?」


「あ、元勇者ってはっきり言っちゃダメだよ、テラス。彼がこの世界で再び勇者になるとは限らないんだからね」


 地獄の神は、テラスにエールという名の浄化の魔法をかけ続けながら、それに、と続ける。


「彼はまだ5歳と少しだからね」


「勇者のくせに、成長が遅いです」








「あらかた片付きましたか……?」



 昆虫型の魔物の大量発生を、物理的に消滅させたテラスが周囲を見渡すと、どこからともなく人々が集まってきた。


「ありがとうございます! 女神様! 救いの女神、癒しの女神様は、この世界の女神様でもいらしたのですね!?」


「……はい、この世界は私の管轄となったようなので、よろしくお願いいたします」


「女神様ばんざーい! 女神様ばんざーい!」



「では、私たちは急ぐので失礼いたします!」




 喜ぶ人々を横目に、音速と見間違う速さで撤退したテラスと地獄の神は、慌てて地獄での結婚式の準備を進めるのであった。

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