第38話 異世界旅行

「はっ!?」


 テラスが次に目を覚ましたのは、異世界だった。


「ディラン様……こちらは?」


「目を覚ましたかい? 医師に診せたところ、驚きのあまり気を失っているだけだと言われてね。それならば、気を失っている間に私たちの世界へ移動した方がいいかなと思って、連れてきてしまったけど、どこか変なところはないかい?」


「はい、大丈夫です」


 後にクロウからテラスが聞いたところ、テラスが気を失ったときの地獄の神の慌て様は大変なもので、地獄中が大騒ぎになったとか。そのせいで、テラスたちはさっさと異世界へ移動することになったのだった。


「うわぁ……」


 テラスがふと周囲に視線を向けると、南国であった。小さな離島にいるようで、後ろは緑が広がっているが、目の前はエメラルドグリーンでテラスの寝かされているベットのある建物は、真っ白いグランピングで使うようなテントであった。テントではあるが、心地の良い風が吹き込み、気温も爽やかな温度で心地が良い。テラスが寝かされているベットは、大きくふかふかで、テラスの頭は地獄の神の膝の上にあり、目線を上げると優しく微笑む地獄の神がいた。


「!?」


「テラス、どうかしたか?」


「なんでもありません……」


 テラスはそっと顔を手で覆い、自分の置かれた現状を整理しようとしたが、地獄の神がテラスの頭を撫で続けることが、恥ずかしく、気持ちが良い。


「ディラン様……」


「ん?」


「重いでしょうから、私の頭を下ろしてください」


「重くないよ? ……でも、起き上がれるか気になるから、ゆっくりと立ってみようか?」


 テラスの頭を優しく支え、起き上がらせる地獄の神は、テラスが座ると同時に立ち上がり、手を差し出す。


「大丈夫かい?」


「はい、ありがとうございます」


「じゃあ、少し島を案内しようかな」


 海を二人で見つめ、島の中の森で動物たちとふれあった。そして、海に沈む夕日を見つめた。


「きれいですね」


「あぁ。あまり、海と言われてもよくわからなかったんだが、テラスと一緒にこうやって見る海は美しいんだな」


 そう言って、テラスの頭に地獄の神が手を置くと、テラスのお腹がぐーとなったのであった。


「……すみません。お腹がすきました」


「ははは、じゃあ、ご飯にしようかな」


 そう言った地獄の神はどこからともなく調理セットを取り出し、エビのような生き物を半分に切ったものにスパイスをかけ、焼き始めた。


「そんなスパイスまで持っていらしたのですね」


「テラスが眠っている間に、市場を見てこの地の料理を見てきたんだよ」


「!? ずるいです……私も行きたかったです」


「そうだったのか。じゃあ、明日は一緒に市場を見て回ろうか?」


「はい!」


 甘辛いスパイスで焼いたエビのような生き物、野菜や肉……地獄の神が作った料理は、新婚旅行の夜にふさわしい豪華な晩餐であった。


「デザートにケーキを作ってきたよ」


「……ディラン様のケーキ!」

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