第34話 その後の世界

「……くっそ」


 テラスたちに封印されて五年。未だにテラスの司るものは決まらず、クロウがイチャイチャに挟まれながら過ごしている中、地上に落とされた元怠惰の神は、反省していた。


「確かに俺も引くに引けなくなってしまったところもあったし、最高神や地獄の神に逆らうなんて、阿呆なことをしたなぁ」


「テラスのやつはむかつくが、今は神籍も外され、俺よりも使い人の方が上位だからなぁ」


 今や、働き方改革によって、使い人と神は協力し合いながら働いていることは、元怠惰の神の知らないところであった。


「……なにかうるさいな」




 五年という年月は、神々にとってはあっという間だが、人間にとっては大きなものであった。元々は山奥であった封印の地も、近くに人間の住む里のある森へと化していた。



「……置いていけ! ここに……」


 人間たちの罵声に、元怠惰の神は煩わしくなる。


「……うっせえな。少し、おびえさせてやるか」


 そういって、異音を立てた。

「どうせやることなんてないんだ。消滅しないくらいに暴れて音を立ててやろう」





「何の音だ?」


「あの岩からだろ」


「割ってやろうぜ!」


 その人間たちの中は、力自慢の者もいたのだろう。そのようにして、元怠惰の神の封印された洞穴の前に、置いてあった岩をたたき割ってしまった。


「……まだ道があるぜ?」


”何者が我が眠りを妨げる”


「「うわぁ!」」


 そう言って、人間たちは走り去っていってしまった。銀髪の一人の小さな子供を残して。




「助けてくれて、ありがとうございます。神様」


「……助けたつもりもないし、神でもない。お前は何だ?」


「僕はね、ここに捨てられたんだよ。忌み子だから」


「忌み子? 人間はよくわからんな」


「……姿が見えないけど、偉大な力は感じるよ、神様」


「だから、俺はもう神様じゃねー。元神様で、今や天界から落とされて、こんな場所に封印された者だよ」


「じゃあ、僕のこと守ってよ。忌み子の力でその封印を解いてあげるから」


「お前の力で、封印が解けるのか?」


「……もちろん」




 忌み子が何かを握りしめるような動作をしたとき、封印は解かれたのだった。








「ん?」


「どうかしましたか? ディラン様」


「……元怠惰の神の封印が解かれた」


「私が確認してきます。まだ、弱体化していると思うので、私一人の力で何とでもできますから」


「一人で大丈夫か?」


「はい。ミコもいつも一人で降臨していますから。ディラン様は最高神との会合を優先してください。今日の会合は欠席できないでしょう?」


「あぁ……気をつけるんだよ?」


「その代わり、私が何をしても許してくださるように、最高神を説得してくださいね?」


「たとえ、元怠惰の神を消滅させようともかまわないよ。問題ないように頼んでおくから、」


「いいよー。テラスなら面白いことしてくれそうだから、今回の騒動について、自由にしていいと僕がゆるしてあげるよ」


「最高神の化身の鳩の姿!?」


「ありがとうございます! では、いってきます」


「ねぇディラン。テラスは強くなったね」


「あぁ……」










----

「さて、久しぶりの地上ですか」


「神様!」


「女神様!」


「この世界を救いに来てくれたんですね!」


「え? 私は、使いで……」


「神様、この森の奥です。あの忌み子がきっと何かしたんですよ!」


「さあ! 見てきてください!」


「え??」



 以前降臨したときは、単なる森の一部だった場所は、人間たちの住処となっていたのだった。そこにいた人間たちに、テラスはあれよこれよと森の中に押し込まれ、何の準備もできないまま封印の地にたどり着いたのだった。



「子供……。あ」


「お姉さんも神様?」


「私は……あなたは……」


「僕は忌み子だよ。今、元神様の封印を解いたんだ」


「……確かに、あなたの力なら、封印は解けますね」


「僕は忌み子だからね」


「いえ、あなたは正しいまっすぐな人です。世界を救う人ですから」


「お姉さんは面白いことを言うね? 世界を滅ぼす忌み子だよ?」


「あなたは、世界を守るんですよ。元怠惰の神は、あなたの管理下に置かれているのですね」


「うん」


「では、この力を分けてあげましょう、穢れを払う力です。この元神もおとなしくさせることができます。正しい道を教えてあげてください」


「……僕にできるかな?」


「あなたはとても勇敢なかたです。絶対にできますよ」


「ありがとう……」







「ありがとうございます! 女神様! 忌み子を消してくださったのですね!」


「いえ、私は……」


「忌み子!? 周囲の空気が勇敢な空気に変わったぞ」


「女神様は、浄化の女神様、癒やしの女神様だったのですね!」


「ですから、この子は最初から、」


「「癒やしの女神様、万歳。浄化の女神様、万歳」」


「……」









「ということで、私は神籍を取得したようです。癒やしの女神、浄化の女神として……」


「不満そうだね」


「あの人間たち、全然人の話を聞かないんですもの」


「まあ、あの子の力は、人に忌み嫌われるものではないからね」


「……」


「そんなに、他の者を気にかけていると、私も妬いてしまうよ? さぁ、司るものも決まったんだ。前例もあるし、婚姻を結ぼうか?」


「はい、地獄の神、ディラン様」

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