オンコノキ

美琴

第1話

 私は、エマ。ソルーナというお菓子屋を営む優しいクマのパパママの間で育った。ソルーナは森の中にある。森の中のみんなが集まって、お話しする場所になっている。普通であればもうすぐで冬眠の時期。でもこの森は一年中眠らない。私以外はみんな体が毛で覆われている動物。私はこの森唯一の人。

 

私が2歳の頃だった。

「森にある湖ってすごく綺麗なんだよ。エマ、明日お母さんと見に行こっか!」

母がそう言うから幼い私は喜んでついて行った。


とても綺麗な湖だった。ずっと水面を見ていたら、独りぼっちになっていた。お母さんを探したけどどこにもいなかった。泣きながら、泣き叫びながら探したけどどこにもいなくて、夜になってしまった。私は捨てられたのだ。幼い私はそれを理解できず、怖くて湖の前にしゃがもうとしたその時、泥に滑り湖の中に落ちてしまった。


とても冷たくて、怖くて暴れていると何かに抱き包まれた。白くて、とても綺麗な髪の長い女の人。湖のように綺麗で私はこの女の人の腕の中で安心して眠ってしまった。

 

次の日目を覚ますと湖の前にいた。でも昨日とは景色が全く違う。私の周りにはたくさんの動物がいた。私の体の何倍もある大きさのクマに抱き抱えられ、どこかに連れて行かれた。普通なら2歳の子がそんな体験をしたら恐ろしくて泣くのだろう、でも私は全く怖くなく、なんなら愛情を感じた。連れて行かれたのは木でできた大きなお家。綺麗で温かい部屋のベッドの上で寝かされた。そして、その部屋にはクマだけでなく、ウサギ、キツネ、オオカミ、トリ、キリン、他にも数えきれないほどの動物が来た。そして木の実など食べ物を置いていくのだ。幼い私は何も理解できなかったが、少しずつ慣れるようにとクマさんは優しく育ててくれた。そのまま数十年が過ぎた。

 

私は18歳になった。ママとパパに愛情たっぷり育てられたおかげでとっても明るく元気になれた。今日はソルーナのお店の当番の日。たくさんのお客さんが来るのを楽しみに待っている。


「エマちゃん、おはよう」

キリンのおばあちゃんはいっつも1番にお菓子を買いに来てくれる。

「おはようおばあちゃん」

おばあちゃんのお気に入りは、ショートブレッド。

温かい紅茶とショートブレッドをテーブルに出す。その時すごく幸せそうな顔をする。


「エマちゃん!おはよう」

次は白梟さんがお店に来た。

「おはようフクロウさん」

フクロウさんはキリンののおばあちゃんに気づいて、おばあちゃんの隣に座った。紅茶とバタークッキーを運ぶと、とても嬉しそうな顔をした。


「エマちゃんおはよう〜」

今度はオオカミさんが来た。

「おはようオオカミさん」

オオカミさんもキリンのおばあちゃんとフクロウさんに気がついて、隣に座った。紅茶とシフォンケーキを出すと、ニコッと笑い嬉しそうな顔をする。



そしてお昼を過ぎる頃には森の中のみんなが集まっていた。みんな何をするわけでもない。森のみんなに会いにきてるの。お菓子を食べてお話をして、歌を歌って、それだけだけどすごく幸せなの。


この森に戦争はない。喧嘩はあるけど、違う生き物だから意見が違うのは仕方がないとお互いがお互いを理解して考えて、支え合う。他者を理解するのは簡単なことではない。なんなら生きる上で1番難しいことかもしれない。それでもこの森は平和だ。


この森の真ん中には湖がある。とても綺麗な湖だ。湖に行くとなんだか懐かしい気持ちになり、それと同時にとても守られている気持ちになる。湖にはとても綺麗な女神様がいるんだって。森のみんなが大切にしている神様。見たことはないはずだけど、白くてとても綺麗な女神様なんだろうと想像できる。


私はこの森に来た時の記憶はない。でも私だけが人間だから、この森で生まれた者ではないとわかる。でもこの森の動物さんは、見ず知らずの人間を大事に育ててくれた。


動物は温かい。だから人間が動物を守らないといけない。

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オンコノキ 美琴 @azu___5

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