思い出の曲

 時刻は正午を過ぎた頃、三人はカラオケチェーン店にやってきた。美桜みおが二年生の夏休みにある有名グループに提供した楽曲が最近追加されたからである。ちなみにこの楽曲の歌詞は三人で書いたものである。

 カラオケに誘ってもあまり来ることはない総士そうしも今日ばかりはこれも思い出なのだからと珍しく乗ってきた。


 案内された部屋に入ると、夏菜かな美桜みおはすぐにマイクを手に取り曲を予約する。その後画面に表示されたのは『君が代』だった。困惑する総士そうしを尻目に二人は歌う。

 総士そうしは訳が分からないといった様子で呆然とそれを眺めていたが、歌い終わったタイミングで美桜みおがウォーミングアップはやっぱりこれだよ、と言ったことでなんとなく理解したという風に頷いた。

 


 その後もウォーミングアップと言いながら国歌を熱唱している二人を眺めていた総士そうしはいつ美桜みおの曲が入るのかと待っていたが、あまりにも長すぎたので端末を操作し演奏を中止し、素早く曲を予約した。

 何も言わずとも美桜みおは準備万端と言わんばかりに右手にマイクを力強く握り締め、左手では親指を上に向けていた。一方、夏菜かな総士そうしの急な曲の予約に動揺しているのか、彼を睨んでいた。


 歌い出しは夏菜かなが動揺していた所為でお世辞にも上手いとは言えなかったが、サビが近づいてくるにつれてその歌唱力が遺憾なく発揮され始め、総士そうしの目には夏菜かなが段々と平常心を取り戻していったように映った。

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