未来に繋がる思い出の道

 カラオケで歌い終わったあと、幾つかの思い出を巡った三人は夕日が照らす道を静かに並んで歩いていた。

 三人の表情はとても満足そうであったが、同時にその心の底では、それぞれがこれから進んで行く未来に微かな不安を感じていることも容易に想像がつく。

 暫くの間静寂が彼女らの周囲を支配していたが、凪いでいた水面のようなその空気を夏菜かなは小石を投げ込み波を生み出すように二人に話を切り出した。


「……総士そうしは自衛隊に行って、美桜みおちゃんはバンドに入って頑張る。私は特技とか、やりたいこととか、そういうものを活かした進路には進めなかった……。私は二人が羨ましくて、妬ましい。でも今まで私に無かった目標を持ってるんだから、二人は強いんだ」


 夏菜かなが言葉を口に出す度に、彼女の暗い感情が彼女の心を蝕んでいくが、溢れ出す言葉は止まらない。それは彼女の懺悔であり、敬意の表れだった。


「私にはしたいことや得意なことはないけど、だからこそ、それを持ってる二人を応援したいって思えた。私は初めてやりたいことに気づいたんだ。これからはそれぞれの道に向かうけど、二人のやりたいことは私が応援したいことだから、覚えておいて」


 夏菜かなの目から一筋の涙が頬を伝って流れた。しかしそれにすら気がついていないのか、彼女は笑顔を作り最後に、強い二人とのお別れに涙は似合わないよ、と総士そうし美桜みおに言う。

 いつしか二人も涙の雫を目の端に溜めていた。


 こうして三人の高校生活は追憶式とともに終わりを迎え、それぞれの新しい生活が幕を開けるが、それはまた別の話である。

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