思い出の味

 次に夏菜かなたちが向かう場所は、高校生になって初めて三人で出かけたこぢんまりとした佇まいのカフェ。

 そのカフェは美桜みおが三年生に進級する直前まで働いていた元バイト先だった。


 美桜みおが元気よく店のドアを開け、店内に入ると、彼女らを小気味良い音楽とともに、店長と常連のお客が笑顔で迎え入れてくれる。

 夏菜かなはいきなり来てしまったことを申し訳無く思いつつ店長に追憶式で思い出巡りをしている旨を伝え、出来ればサンドイッチとカフェオレを三人分注文したいと言うと彼は快く承諾してくれた。

 店長との久々の会話を楽しんでいると店長は、「お待ち遠さま。熱いから気をつけて飲むんだよ」と言いながらカフェオレとサンドイッチを彼女らの目の前に置いた。


 初めて三人でここに来た時は、知らない店に入るという行為に心躍らせていたし、自分で稼いだバイト代をこんなにおしゃれなお店で使えるという事実が彼女らにとっては本当に嬉しかった。

 しかし今では常連と言っていい程に通い慣れてしまい最初の感動が薄れ、新しいメニューを提案してみたり、その新メニューを試食させてもらったりと随分店長にはお世話になった。その割には他の友人を連れてくることは殆どなかったし、貢献という貢献は出来ていなかったと今の彼女らは感じていただろう。

 最初、このカフェにはサンドイッチと数種類のコーヒーしかメニューがなかった。その中で彼女らが飲食できたのはサンドイッチとこのカフェオレだけ。

 味自体は特別美味しいわけでもないこのカフェオレとサンドイッチは、それ故に彼女らの思い出の味となったのだろう。


 暫くの間、静かにカフェオレを啜る音と優しい雰囲気の音楽が店内に響いていた。

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