墓場と思い出

 夏菜かなたちが墓場に到着したのは、追憶式が始まって一五分ほど経った頃だ。それまでの道程で彼女らの間に会話はなく、しかしそれほど雰囲気は悪くはなかった。

 ある墓石の前に着いたとき、総士そうしが口を開く。


「ここに来たら、嫌な思い出ばかりが蘇る……。そのはずだった」


 夏菜かな美桜みおは彼の落ち着いた、しかし少しだけ自虐的なものが混ざったような声に耳を傾ける。


「いつかわからない、自分の物心すらついていたかわからない。そんな昔のことでも、思い出す気がする」


 そう言うと、彼は数歩だけ前に出て、空を見上げて続ける。


「……美桜みおのことも夏菜かなのことも。俺は嫉妬してたんだ」


 夏菜かなの隣から小さく息を呑む音が聞こえる。総士そうしは、生まれてから感じていた一八年間の孤独を吐き出す彼は今どんな顔をしているのだろう、と夏菜かなは思ったに違いない。


「ずるいと思った。根拠もなく、俺はお前たちが優遇されていると思ったんだ。でも、死ぬ前に母さんは言った。『妹たちを守ってあげて』って。……俺は期待されてたんだって初めて気がついた」


 夏菜かなの隣にいる美桜みおは最早隠すことができないほどに大量の涙を流していた。しかし決して大声ではなく、静かに、ただここに眠る自らの母親に恥ずかしいところを見せないように。


「埋められる母さんの骨壺を見て、埋められたあとの母さんの墓を見て、泣きまくるお前たちを俺が守るんだって幼いながらに覚悟した。それからは墓参りが苦じゃなくなった。母さんに託されたものは俺が守ってるよって、それを伝えられるから」


 総士そうしはうまくつかないマッチに火を点け、線香に火を移した。線香の煙は、まるで本当に母親の言葉を代弁するかのように、一度総士そうしの胸の辺りに近づいては空に昇っていく。

 辺りには美桜みおの小さな泣き声と、線香の香りが漂っていた。

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