追憶式の始まり

 校長の言葉から式は始まる。内容としては毎年同じで要約すると高校生活で得たものは必ず卒業生たちの力になるだろうというものだ。

 そしてこの追憶式の開会式での校長の言葉と、この学び舎を巣立っていく卒業生の思い出の地を巡るという行動を単なる行事や遊びと捉えてしまうと、彼らを成長させることはないという真意も校長の言葉の裏には隠されていた。


 そのうち諸連絡も終わり、追憶式が始まった。

 夏菜かなは雑談していた総士そうし美桜みおの元に駆け寄り、「じゃあ、行こうか」と元気そうに話しかけた。

 返事を待たずに校門に向かって走り出そうとしたが、総士そうしの「……はしゃぎ過ぎるのは、良くない」という言葉が聞こえ、立ち止まり、振り返る。

 総士そうしと目が合うと、彼は目線を少し逸らし、俺達の最初の思い出の場所ははしゃいで行くような場所じゃないんだよ、と消え入りそうな声で呟く。

 それと同時に一見落ち着いて見える美桜みおの、強く握られた拳に夏菜かなの目線は吸い寄せられる。

 夏菜かなは自分の失態に気がついた。


 追憶式の最初に向かう思い出の場所は、出会った場所という決まりがある。そこでの思い出を振り返ることで、真に追憶式が始まると言っても過言ではない。


 最初に彼女らが訪れるべき場所は、彼女らの先祖たち、そして遠山とおやま兄妹の母親が眠る墓場だった。

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