卒業生の感傷

 卒業式が終わり、卒業生が在校生に見送られ校庭へ移動する。

 その移動の間卒業生たちの中には仲間ともうすぐで違う道を行く不安を隠しきれない様子の者や、彼らにとって忘れられない高校生活を締めくくる追憶式の開始に心踊らせている者も見受けられた。

 夏菜かなは前者のようで、先程から目線だけで総士そうしの方を見ていたが、目が合うと気まずそうに目をそらすという行動を、まるで引っ越した先の家に慣れず、落ち着きを取り戻せないペットのように何度も繰り返していた。

 一方の総士そうしは見られていることに対し、夏菜かなの視線が総士そうしに何かを伝えようとしていると感じられただろう。

 そうした移動時間を経て、卒業生たちの心情は徐々に自分たちがいた日常から離れていく、ある種の喪失感に染まっていった。それは卒業生全員の心の奥底に眠る、この時間が終りを迎えてほしくないという欲求につながることだろう。


 そして全員が校庭に集合し、追憶式の開式宣言がスピーカーから流れてきた。

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