グッド・バイ

N.N.

追憶式の朝

 いつもの時間、いつものアラームの音で夏菜かなは目を覚ます。アラームを止め、ベッドから起き上がり、カーテンを開け日差しを浴びる。いつもしていることであった。

 しかし今日の夏菜かなのこの行動には彼女も気が付かないほど自然な寂寥感が伴っていた。

 部屋を出て階段を降り、一階のリビングで朝ご飯を用意していた夏菜かなの父におはよう、とだけ言って、椅子に座り、朝食をとる。

 黙々と食パンを食べる夏菜かなを彼は心配そうな目で見ていた。だが、それにすら気が付かない様子で夏菜かなは何故かいつもより食べたという感覚の薄い朝食を食べ終わると、すぐに洗面台に向かった。

 顔を洗い、歯を磨き、制服に着替えて、二階の自分の部屋に鞄を取りに戻ろうとしたあたりで家のチャイムが鳴った。

 夏菜かなは父の足音とは別に二人分の足音が玄関の方から聞こえたことから、幼馴染が迎えに来たと判断して、玄関の方に向かって今行くから待ってて、と声を上げ、鞄を持って玄関に向かう。

 思った通り、玄関では幼馴染の総士そうし美桜みおが待っていた。「おまたせ」と夏菜かなが言うと、総士そうしが小さく頷き、美桜みおは調子よく「待たせやがって」と笑顔で返す。

 見送る夏菜かなの父の目からは徐々に学校生活という日常から離れていく三人の背中は、大きく、しかし寂しさを纏っているように見えたことだろう。

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