第3話

 バゴンッ


ギリギリ落とさなかったものの、手がふきとんだかと思った・・・。

「れお、投げるの早いね。まだキャッチボールなんだからゆっくりでも良いのに」

びっくりしながられおに話すと、れおはきょとんとした顔で見てくる。

「え?まだキャッチボールだからゆっくり投げたよ?」


「っ。そっか」

僕は今どんな顔をしてるんだろ。ちゃんとわらえてるかな?

僕の顔をのぞきこむように、れおはびくびくと見つめてくる。

「ど、どうした?」

「あの、あのね。おれがボール投げると、みんな怒るの。よくわかんないけど、怒られるの。それで、それで友達がいないの」

きこえるか分からないくらいの声でれおは話す。


「それで?」

ちょっとらんぼうな言い方になっちゃった。

なんでだろう。なんでかむかむかする。

「えっ。え、あの、それで。ゆいとくんもおれのこと嫌いになる、のかな、って思って」

僕は怒っているのかもしれない。いや、なんていうのか分からないけど、気持ちが変だ。

しゃくぜんとしない、っていうのかな。

「何でそんな考えになるんだよ。僕がれおのこときらいになる?そんなことないよ」

少しちくちくした言葉になっちゃったかもしれない。

今すぐにでも大声でさけびたい気分っていうか、どうしようもないことに地団駄ふんでる子供みたい。


「!ほんと?ゆいとくん、おれのこと嫌いじゃない?っうれしい!!」

見たことないようなえがおのれおが、僕のことを見てくる。

心がざわざわして、むしょうにれおから離れたい。なんでなんだろう、この気持ちをおさえたい。



そこかられおは絶好調だった。いつもがどんなふうなのかよく分からないが、にこにこの笑顔でごうそっきゅうを投げてきた。

胸がちくちくするような、ざわざわするような気分は変わらなかったけど、れおの球をとることで必死だったから、よく覚えてない。


「澪央くーん、結都ー、ごはんだよー」

お父さんに呼ばれるまでずっと捕ってたから、もうくたくた。れおは疲れ知らずってかんじで、まだ投げたりないみたい。すごいなぁ。




「澪央くんどうだった?野球始めたんだよね?」

お父さんとゆっくりはなせる時間がとれたのは、家にかえってからだった。

あのあと、ばあちゃんちのご飯をたくさん食べて、よるおそくに家にかえってきた。まだ、れおの球が左手にのこってるみたいな感覚がする。

「えっと。なんかすごかった」

なぜかお父さんは、にがわらいしながら僕を見てくる。

「”すごかった”って、それだけじゃ分かんないよ?」

僕はことばをがんばって考えた。れおの球をどうやって表せばいいのかわかんない。

「れおのボール、早かったよ、僕よりずっと。なんて言うか、初めてとったときざわざわしたの。ほんとによく分かんなかったけど、心がぞわっていうかざわっていうか」


そう言ったら、お父さんは少し考えこんだ。

「うーん、そっか。澪央くんはどうだったみたい?」

れおのようす?にっこにこだったことくらいしか思いうかばない。

「にこにこの笑顔だったよ。あと、チームメイトにきらわれてて友達いないっていってた」

お父さんはもっと考えてるみたい。ちょっとしわができてる。


「あのね、結都。お父さんも澪央くんのお父さんと初めてキャッチボールしたとき、すっごく嬉しかったんだ。

でも、澪央くんのお父さんは複雑な気持ちだったみたい。今の結都と同じだね。

そして少しの後、絶望したんだって。お父さんがいることにね。野球にはそもそものポテンシャルも必要だから。お父さんに嫉妬したんだって。

結都はどう思ったの?」


どう、思ったんだろう。僕は、さいしょにキャッチボールしたとき、なんて思ったんだろう。


ビリビリとしょうげきがくる左手、きらきらの笑顔をむけてくるれお。

右手に力をいれて、ボールを見る。いっしゅん息ができなかった。


「、ねぇ、お父さん」

お父さんの方を向けば、ソファに座っていたのにいつの間にか立っていた。寝るじゅんびをするみたい。

「ねぇ、お父さん。僕は、こわかったのかもしれない。れおが怖かったのかも、しれない」

僕のことばをきくなり、お父さんはまた僕のとなりにすわった。

「そっか、怖かったんだ。怖かったんだね」

少しなっとくしたように呟いて、お父さんはだまってしまった。


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