第2話

 ―16年後―


 いつもの通り、ほんとうにいつもの通りだった。

リトルでのれんしゅうを朝早く起きてやって、やっと昼休憩。ずっと前からお腹がぐーすか言ってたから弁当の中身をかきこんでいた。ぎょうぎが悪いって言われるけどしょうがない。

「結都」

チームメイトとしゃべっていたら名前をよばれた。

後ろをふりかえるとお父さん。急いできたみたいでかたで息をしてる。いっつも体力ないとか言うけどおあいこだね。

「結都、今日の練習はもう帰ろう。急いで埼玉まで行くよ」

意味がわからない。

いつの間にかかんとくまでやってきて、早く帰りなさいと言ってきた。

「なんで?まだ午後練あるよ?」

お父さんはこころのよゆうがないみたい。僕の問いに答えることなく片づけをはじめた。


「ゆいとくん、帰っちゃうの?」

ほら、かなとを心配させた。 かなとは同い年だけどまだちっちゃい。早生まれっていうらしいけど、よくわかんない。

かなとのほうに行って、よしよしする。

「ごめんね?帰んなきゃいけないんだって。今度のれんしゅうはちゃんと来るから」

かなとは不安そうな顔をして小指をつきだしてきた。

「やくそく?」

「うん、約束。・・・指きったっ!」

指きりしたらかなとは笑顔になって人だかりの方へと行った。


「結都。もう帰る準備はできた?いくよ」

背の高いお父さんは足が長くて、僕よりもずっと足が速い。おくれないようにちょっと走って後をおった。




 「本当に、すぐのことで、まだ心の整理がついておりません」

まっくろの服を着た大人たちがたくさん集まっている。がやがやうるさい。

お父さんはすぐ親戚の人に回収されてしまって、僕の周りには誰もいない。

いつも長い休みにくるばあちゃんち。広い家なのに今日はきゅうくつに感じる。

「結都くん」

声をかけられた。

あんまり人を覚えるのは得意じゃないけど、この人のことは良く覚えている。お父さんのお姉ちゃんだ。

「みかちゃん」

本当はみかこって名前なんだけど、みかちゃんって呼んでる。そっちの方が嬉しいんだって。

みかちゃんは僕に目線をあわせるためにちょっとひざを曲げた。

「結都くん。今日は来てくれてありがとうね。うちの澪央と違ってお利口さん。

 澪央は裏庭の方にいるから、もし良かったら遊んでくれないかな?」

みかちゃんはにこりと微笑んで、それだけ言って帰っていった。


れおはみかちゃんの子供だ。いわゆるいとこ。

さいきん野球をはじめたって聞いたから、会っておこうかなぁ。



「れおー?いるー?」

うら庭にまわったら土いじりをしているかたまり。

れおは僕の声に反応して顔を上げ、目が合った。

「ゆいとくん!」

ぱあっと顔をあかるくさせるれおはめっちゃ可愛い。

「れお、やきゅう始めたの?お父さんに聞いたよ」

れおはうんっと返事をしてから、グローブと球を持ってきた。

「おれピッチャーやってんの。ゆいとくんは?」

僕も一応投手をやらせてもらってる。でもひととおり全部かじったから、なんでも少しはできるはず。

「れおがピッチャーなら僕キャッチャーやるね。

 まずキャッチボールしよ!」

これでれおも申し訳なく思わないよね?

「おれ左利きだから、グローブも右用なんだ!…こっちがゆいとくんのね」

そう言われて左用グローブをわたされた。キャッチャー用じゃないけどまぁいっか。


「じゃあいくよー」

左手をふってから投げる。まだキャッチボールだしかるめに投げた。


ぱち

「おれもー」

そう言ってれおが投げるどうさにはいった。


あれ?キャッチボールのわりに早い?れおの指先からはなれたボールはまっすぐに左手へと向かってきた。


バゴンッ


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