惑星外移住

@rona_615

第1話

 科学技術の進歩は種の破滅にも繋がりかねないというのは陳腐な論である。しかしながら、この星の我々にとって避けることのできない事象となってしまっている以上、凡庸だの何だのと非難している暇はない。

 ある一定の空間を過去の同じ場所のものと置き換える、タイムマシンをベースにした技術は、破壊された環境を回復する手法として優れていた。土壌や空気中の有害物質は、過去に送り込まれた瞬間に歴史の自浄作用によって、タイムパラドックスを起こさないレベルまで、減少させられる。人や建物を避難させた上で計画的にこの技術を適用させていけば、近年の異常気象までも解消される見込みだった。

 けれども、国同士の争いが始まってしまえば、そんなものは机上の空論でしかなくなった。敵国をターゲットに時空間置換技術を乱発すれば、効率よく人や物資に損害を与えられるのだから、兵器としての展開が避けられないのは、お察しの通りである。

 戦争が終わったのは、決着がついたとかじゃなくて、続けるだけのリソースがなくなったからだ。そうなってから星を見てみると、もう我々が生き続けていくだけの環境は残っていなかった。

 平和な時分に蓄積された惑星外の知見が、我々の種の新たな希望となった。隣接する銀河系の辺境に、生存の可能性がある星が発見されると、その期待は飛躍的に高まった。幾つもの探査機が送られ、我々に適した環境があるか否か、捜索は続いた。

 惑星の表面近くは有毒ガスに覆われているが、内部に近づくと、十分に薄くなること。また、圧力もこの星と同程度の場所があること。生命活動に必要な元素も存在しているらしいこと。

 ある程度の目処が立ったところで、移住船の開発がスタートした。行ったっきりの、まるで特攻部隊ではあるけれど、このまま、この星と共倒れになるよりはマシだ。

 第一号機に乗ったのは、軍人と科学者、そして、いわゆるモルモット代わりの小型の愛玩動物だった。


 第一号機テラは第三惑星に到達した。星の表面は水素と酸素からなる液状の物質で覆われていた。外圧は低いが、宇宙船の破損はなく、内部の圧力は一定に保たれている。

 液状物質を惑星内部に向けて進むと、徐々に外圧が高まってくる。圧力が十分に高くなった辺りで、船は固体物質と接触した。周囲の元素構成をモニターしてみると、硫黄濃度は高く、生存に耐えられるレベルであると判断された。

 愛玩動物を外に出してみると、宇宙船の外部を歩き回る様子が観察された。我々は、ここを移住地第一とすることに決め、故郷へ信号を送った。

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