第4話 マモル


 三人とも曖昧な記憶だったのに、三人でその曖昧な記憶をつなぎ合わせた結果すぐにたどり着けたのは純粋に凄いなと思った。


 会話は少ないのに、その沈黙は嫌ではなくて。

 僕らはただ三人で歩いた。


 そしてたどり着いた先では、10年の月日が立つにも関わらず当時の面影が残っていて。

 公園から少し登った先の茂みの奥に、ダンボールで作られた、今では風雨で掠れた文字すら残っていない看板があった。


 残っていなくても僕ら三人だけは読める。


『ひみつきち』


 そう書いてあったはずだ。


「やるか」


「ああ、交代しながらな」


 僕らはそう言い合って、来る途中のホームセンターで三人でお金を出し合って買ったスコップ一つを交代しながら掘り進めていった。


 小学生のやることだ。

 あの時は物凄い深さまで掘ったような気分でいたけれど、三人で交代しながら掘ると2回目のローテーションの僕のときに、何かに当たるような感触があった。


 僕は二人を振り向いて、そこからは手も使いながらそろそろと丸い金属の箱を掘り出していく。

 確か、これはツヨシが家から持ってきたクッキーの缶だったよな、などと記憶の底に眠っていたものが、土と一緒にどんどんと掘り出されていくようだった。


「……いよいよだな」


「まさかお前らと、ちゃんとこうして堀りに来れるとは思ってなかったよ。まぁこの頃はずっと一緒のつもりでいたんだけどな、なぁヒトシ」


「ごめんってば。でもさ、ここまでで考えてて自分が拗らせてるなぁとも思うけど、二人も凄くなりすぎだって」


 無言の時間だって多かったのに、不思議なことに軽口を叩きあうのに何の障害もなくなるくらいに、僕らは僕らになっている。

 そんな風に感じながら、正直僕はドキドキしていた。

 間違いなく、ミツルもツヨシも絶対ドキドキしていると思う。


 僕とは違って、この二人は女の子にもモテるし随分と差があるような気もしていたのだけれど。

 変わったものと変わっていないものもあって。


 そして、あの頃の僕らは、言葉にこそしなくても間違いなく三人とも彼女のことが好きだった。

 でも、果たして彼女が誰のことが好きなのか、それは永遠の謎で。

 三人とも、実は自分のことが、と思ったまま、その答えは永遠にわかることなんて無いと思っていた。


『えー? 好きな人? ふふ、ひ・み・つだよ』


 そんな声が今でも聞こえる気がする。


「おわ、このおもちゃ懐かしすぎるっしょ、見ろよ」


「なんだこの落書きみたいなの……」


 一番見たいものは最後に。

 そんな暗黙の了解を三人で共有しながらでも、実際当時自分たちが入れたものを見るのは本当に楽しかった。


 でも、そんな時間も終わりを告げていく。

 最後、可愛い封筒に入った便箋を僕は取り出した。

 意外とちゃんと紙って残っているものなんだな。


「意外と文字とかわかるくらいに残るんだな」


 僕が思っている心を読んだのではないかと思うほどそのままに、ツヨシが言って、ミツルも頷いていた。

 それについ僕は笑ってしまって、何となく気が抜けたようにして、手紙を取り出して。僕らはそれを三人で見た。




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 みらいの私へ


 今私は、おかあさんがいて。おとうさんがいて。わたしは毎日たのしいのだけど、あなたもそうかな?


 それに、大切な友だちもいるの。けんかはしていない?

 わたしは、この四人で遊ぶのがとても好きなんだ。あなたもそうだといいな。


 穏やかで優しいヒトシは安心する。

 頭がいいミツルは色々な事を知ってて凄いし。

 走るのが早いツヨシはカッコいいし。


 それにね好きなひともいるの。みんなにはひみつだけど、あなたはみらいの私だからいいよね?

 きっと身長も伸びて、大人になって、の彼女になれてるといいなと思います。

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 最初は少し切なく読んだ。

 そして、読み終わって、その後にもう一度読んだ。


「「「…………」」」


 僕も、ミツルも、ツヨシも。無言だった。


「「「…………」」」


 ――――いやいや。

 そう、二回目も読んだけど読み間違いじゃなかった。



「「「マモルって誰だよ!?」」」



 三人でハモった。

 そして、三人とも顔を見合わせてポカンとしているうちに、衝動のように笑いが込み上げてきて止まらなくなる。



「なぁ、ヒトシさ」


「はぁはぁ、何? ツヨシ」


「明日から避けるの禁止な、なぁ、ミツル」


「そうそう、俺たち三人とも、失恋仲間だったわけじゃん?」


「くっそー、絶対俺のこと好きだと思ってたのに!!」


「あはは、みんなそう思ってたよね、やばい、久しぶりにこんなにわらったなぁ。そしてそうだね……変に避けててごめん、またよろしくね」


 明かさなくていい秘密というものもあるのだと思うけれど、僕らのこれはきっと、10年越しに明かされてよかった秘密だな、なんてことを僕は思ったんだ。



 ◇◆



 ちなみに、僕らはそのまま三人で彼女の家にタイムカプセルを届けて。

 彼女のお母さんとお父さんは少し泣いて、最後のオチと僕ら三人のぼやきに大笑いしてくれて。

 マモルくんは、その頃近所に住んでいて、時々遊んでくれていた当時高校生のお兄さんの名前だと教えてくれた。


 会ったこともないお兄さんだけれど、僕らは三人とも貴方の名前を忘れないだろう。

 勿論、彼女のことも、そして秘密基地のこともきっと。


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