第37話 第三ラウンド、奇跡が起こる
「殺して、やる……!!!」
二宮は、生命エネルギーが満たされたとはいえ、全快とは程遠い。
俺も、正直限界だ。魔力はすっかり底をつき、身体に気合いを入れようにも”気合い”なんてもの、もうどこにも持ち合わせていないのだ。
最初に仕掛けたのは二宮だった。といっても、先ほどまでのスピードはどこへやら、まるで病院から抜け出してきた老人患者のような、おぼつかない足取り。
しかし、二宮の瞳は、まだ殺意に燃えていた。
「お前、人を、笑わせたいんだろ……だったら、今すぐ、死んでくれ!」
そう叫んで、俺の胸を握り拳で叩く。何一つダメージがないはずなのに、ずきりと胸が痛んだ。
「そしたら、少なくともボクは、笑ってやる! お前みたいな、劣等種は、どうせすぐ死ぬんだから、別にいいだろ!」
「おいおい……」
これまた炎上必須なことを言い出したなぁ。もう緊張は十分だから、変に観客を怒らせたりしないでくれよ?
「てかお前さぁ……たかが二位になっただけで、そんなに怒ることかよ」
思わず呟くと、二宮はまるで俺がこの世の終わりの擬人化のように、顔を真っ青にした。
「本気で、言ってるのか? そのせいで、ボクがどれだけに屈辱を味わったと思ってるんだ!」
「いやいや、この探なんてただの人気投票だろ?」
「それだけじゃない! 子供の頃だって、ボクを二位にした!」
それこそ、ただの子供の大会だ。だいたい、人生、一位になれることなんて早々ないんだから、そんなことでいちいちショックを受けていては生きていけないだろう。
「お前に公衆の面前で屈服させられて、二位宮なんてバカにされた!!……アレ以来、ボクは狂ってしまった!! 常にイライラして、何か物足りなくって……おかげで、毎日のようにSMでオ◯◯ーするようになってしまったんだぞ!」
「……え? いや、それはお前の性癖だし知らねぇよ」
だいたい論理的に考えて屈服させられる→サディストにはならないだろ。他責思考もここまで来ると生きにくいだろうな、とちょっと同情してしまった。
「しね! しね! しね! しね!」
「……はいはい」
そろそろ言うこともなくなってきたみたいなので、そろそろ本題に入るとしますかね。
俺は、二宮の異様に細い胴を両手で掴んだ。
「どっ、こい、しょ!!」
そして、最後に残った力を振り絞って、二宮を逆さにひっくり返すと、肩に抱えたのだった。
「なっ、なんだぁ!?」
「ぐっ……」
こんな薄っぺらい身体を担いだだけなのに、足腰にめちゃくちゃキやがる。今にもぶっ倒れそうだが、何があっても離したりしない。
「おい、説明しろ! なんなんだこれは!?」
俺はジタバタ暴れる二宮の細い足を掴み、その疑問に答えてやった。
「恥ずかし、固めだよ……!!!!」
ガバッ!!!!!!
そして俺は、二宮の股を思いっきりかっ開いたのだった。
……さすが、エルフだ。非常に身体が柔らかい。見事なかっ開きっぷりだ。
きっと、これから何度もやるだろう恥ずかし固めだけど、まず間違いなく俺史上最高傑作となるだろう、見事な恥ずかし固め……だってのに。
――――――――ああ、クソ、静かだなぁ。
本来だったら、ネタ系配信者として、絶対に避けなくてはならない静寂……ただ、なぜだかそれが、心地よくさえ感じていた。
きっと、逃げずにやり切ったからだろうな。そうだ、後悔はない。だから、今はただ、この静寂に、浸っていたい……。
――――
――――――――
――――――――――ビリッ。
「ん?」
今、上から音がしたような……。
巨大スクリーンの方に視線を移す。俺と二宮の恥ずかし固めがドアップで映し出されていた。
「……え?」
目を凝らす。二宮の、火竜の皮で作られたボクシングパンツ。
そのお尻の縫い目のところに、小さなほつれができていたのだ。
ビリビリ、ビリッ。
小さなほつれは、どんどん大きくなっていく。恥ずかし固めの無理な軌道が、ボクシングパンツに負荷をかけてしまったのだ。
まずい!!!
そう思った時には、ほつれはどんどん大きくなっていく。火竜の皮自体がそれなりに重いものだから、逆さに担ぐことによって自重が働きほつれを助けているんだ!
そして、ついに縫い目の端っこまでほつれてしまったボクシングパンツは、まるで火竜の脱皮のように、べろんと剥がれていく。その様子がスローモーションに見える中、俺はある結論に達して安堵していた。
パンツ、なんて言ってるが、ボクシングパンツは直で履くものじゃない。二宮がノーパン主義者でもない限り、ただのパンツが見えるだけ……ハッ。
『ま、あんまり調子に乗らないことだよ。何も、ノーパンなのは君だけじゃないんだからね』
「あれって、そういう意味だったのか……」
ぷるんっ。
そして、43000人の大観衆の前で、二宮のチ○ポが顕になったのだった。
「…………………………」
生配信でチ○ポが出てしまったという、未曾有の大事件。
一刻も早くチ○ポを隠さないといけないと頭で分かっていても、フリーズしてしまって動くこともできない。
それは、俺以外の連中も同じだった。誰も動けない、そんな中、実況者としてのプライドがそうさせたのか。
お嬢様実況者が、ポツリとつぶやいた。
『ちっさ、ですわ』
どるんっ。
「えっ?」
すると、この異常事態によってさらに張り詰めていた東京ドームの空気が、二宮のチ○ポが出た時の効果音とは明らかに違う、重厚感のある音をたてて揺れた。
……おいおい、もしかして、これって。
俺は、その空気の揺れに合わせて、身体を揺らした。すると当然、二宮のチ○ポも一緒になって、ぷるぷると揺れることに……いや、ちっさすぎて揺れるを通り越して回転し始めたぞ!?
「ぶふっ!」
……え、今。
視線が、その音の元へと引き寄せられる。
観客席。吹き出したのは、二宮応援団の中の一人だった。
彼女は笑った自分に気がつき、慌てて口を抑えたのだが、それでも耐えきれなかったのか、「ぶふふっ!!」と再び吹き出してしまう。
それが、契機になる。
「……ぐふっ」
「ひひっ」
「ぶひひっ」
「ちっさwwww」
最初はポツポツと、そしてそこから、笑いが波及していく。
やがて笑いの波は、高く、高く立ち、そしてお互いがぶつかりあい、立ち昇って、この東京ドームに降り注いだ。
「「「「「ふっはははははっwwwwwwww」」」」」」
43000人の、本来の意味での爆笑。
東京ドームが、文字通り揺れたのだった。
「……ウケ、た」
ウケた、ウケた、ウケた、ウケた!!!!!
「あははっ」
そんな全てをかき消さんばかりの爆笑の中、俺は確かに、懐かしい笑い声を聞いた。封じ込めていた昔の記憶が、湧き出るように蘇る。
『あははっ、そうだよ
『あははっ、
『あははっ、
……そうだ、母さんは、昔はよく笑う人だった。
「かあ、さんっ」
笑い声の方に振り変えると、父さんと一緒に客席に座る母さんを見つけた。
「ふふっ、あははっ、あひゃっ、あはははははははっ」
母さんは、お腹を抱えてジタバタ悶えながら、涙が出るくらいに大爆笑をしていた。
(ああ、母さんが、笑ってる!!)
俺のしたことで……俺の恥ずかし固めで、笑ってるんだ!!
……。
…………。
………………。
……冷静に考えると、親が人のチ○ポで腹を抱えて笑ってるの、なんかあんまみたいもんではないなぁ。
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