第18話 下層『火竜の棲家』
開いた門の先に進み、俺たちは下層の第一階、通称『火竜の棲家』に足を踏み入れた。
ダンジョンは下層から別世界になる、とよく言われるが、本当にその通り。
今までの敵は基本的に魔物だったわけだが、下層からはダンジョンそのものが俺たちに牙を剥いてくる。
この火山エリアの平均気温56.7度。常人ならここにいるだけで体力を消耗し、やがて死にいたる地獄の世界。
至るところからマグマが吹き出し、活火山が噴火しようものなら、大量の噴石が飛んできて、それに潰され死んだ探索者は多い。
もちろん、魔物のレベルも格段に上がる。いくら中層で無双したとて、下層の魔物相手にひのきの棒で勝てるという証明にはなり得ないのだ。
魔力探知で火竜の気配を探る。どうやらあの休火山の天辺で休んでいるようだ。これ以上の長居は明日に響くし、さっさと片付けてしまおう。
俺は火竜の居場所を悠里さんに伝え、火山の天辺まで一緒に飛んだ。
そして、予想通り寝そべってすやすや寝ていた火竜の眼前に飛び降りると、火竜は片目だけ開いて俺を見た。
>うおおおおお!! 同接10万突破!!
>『同接10万人』『ダンジョンの主』『魔剣』『タッくん』『タッくんおめでとう』など、おパンティン関連のワードがトレンド入り
>タッくんおめでとう!!
>さっさと火竜倒してタッくんところに戻ってほしいわ
>ダンジョンの主ってマジなの? だとして、おパンティンがどこでそんなのがいるって知ったんだよ?
>そりゃ、おパンティンがダンジョン最終階まで隅々探索したんだろ
>流石にそれはない。まだ人類史上、最終階に到達したものはいないんだからな
>いや、それはあくまで公式でだろ? 一体誰が確認するんだって話だからな
>ていうか、さっきの魔剣についてはいつになったら説明してくれるんだよ
>超スロー再生で見たら、刀から無数の魔力の刃を飛ばすっていう単純な作りみたいだけど、とにかく速すぎる。予備動作もほぼないし、初見じゃ絶対かわせんわ
>魔剣研究系配信者が、「これほど殺傷に特化した魔剣はお目にかかったことがない」って言ってたぞ。
>そんなやばい魔剣をパンティ被った変態男が所有してるとか、日本終わったな
と、中層の興奮も冷めやらないコメント欄も、魔物の王様と呼ばれる火竜をカメラが捉えた瞬間。
>うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
>ついにきたあああああああああああああ!!!
>ミミックとかいってマジですみませんでしたm(_ _)m
>やっぱドラゴンってかっけぇわ!!!
>間近で見ると迫力やべえええええええええ!!! トカゲとかいっちゃってすみませんでした!!!!
>普通に火竜との戦闘が生で見れるってだけで神配信じゃね!!
と、言うコメントばかり……には流石になってはいないな。
特にダンジョンの主の件は、どうやら相当な衝撃を与えてしまったようだ。せっかく今から火竜をひのきのぼうで倒すんだから、もうちょっと注目してほしいんだけど。
>完全に動画と同じように再現して見せないと、ボクは納得しないぞ!!
と、そんな中、こんなコメントをしてくれる人がいたものだから、俺はつい嬉しくなってしまう。
「動画と完全に同じようにしてくれ、ってコメント来てますね……わかりました、やってみます!」
それだけで証明できるのなら安いもの、なんだけど、なんだか気恥ずかしいな。M○1で優勝した漫才師が翌日のニュース番組で同じ漫才を披露する時ってこんな気分なんだろうか。
「カメラマンさん、ひのきのぼう、お願いします」
俺は悠里さんに預かっておいてもらったひのきのぼうを受け取る。
まずは、ひのきのぼうで火竜を殴る。そして、ひのきのぼうが折れたことに驚くところか……よし、なんなら初めてやった、みたいな顔してやる!
「っ!!!!」
その時、俺はそこで初めて後ろの気配に気づき、慌てて振り返った。
「……へぇ」
これほどの脅威を感じたのは、一体いつぶりのことだろうか。
今俺たちがいる山と連なるように聳え立つ黒山の頂上に、一匹の魔物がいた。
体長は三メートルくらいの四足歩行。この地獄のように赤黒い火山エリアで、たった一つの純白と言えるその姿。
顔はコボルトよりも犬に近く、コボルトと違って人型ではなく犬そのもの。しかし、犬とは明らかにそれとは違う巨大な翼を有していた。
額に輝くのは、なんらかの鉱石だろうか? この世のものとは思えない複雑な色彩。
そして、少なくとも俺が今まで出会ってきたどの魔物よりも、洗礼された魔力を放っていた。
それでいて、俺や火竜、そして魔力感知能力の高い悠里さんすら、今まであの魔物の存在に気づかなかった……敗北に腹を立てたダンジョンの主の差し金か?
「カメラマンさん、あれ」
俺は謎のもふもふ犬を指差して、カメラを誘導した。
>え?
>なんだあの魔物?
>カメラマンさん、もうちょっとアップして
>少なくともただの魔物じゃないのはわかる
>おいおい、これ新種じゃないか!?
>ただ、弱そうは弱そう
>下層に弱い魔物なんて一匹もいないぞ
>もし新種発見したなら、おパンティンが名前つけれるぞ!!
>ちょっとアプリでランク測定してみるからカメラマンさんそのままカメラ固定でお願いします
10万人の知識を総動員しても、あの魔物の名前すら出てくる気配がない。新種で間違いないな……厄介だ。火竜ぶっ倒すまでそこでじっとしといてくんないかしら。
との願いを察知したのか、もふもふ魔物は翼をはためかせ、こちらに飛んでくる。
まいったな。人型の魔物なんかはいくら消しとばしてもいいんだけど、ほぼ犬を殺すのはちょっと辛い。いや、あくまで犬型であって、犬とは全く違うものなんだけどな。
「バウワウ!」
ああ、アメリカ人が聞いた犬の鳴き声してるし完璧に犬だわこれ……いや、俺は日本人だから、日本人の俺の耳に「バウワウ!」って聞こえてるってことは、つまりアメリカ人にとっては犬じゃないってことか? 駄目だ、我ながら意味がわからない。
>……トリプル
と、エクスクラメーションマークに塗れたコメント欄の中に、気になるものを見つけた。
>その魔物、SSSランクの魔物だ!!!
>え?
>は?
>はぁ!?!?!?
>SSS!?!?!?!?!?!?
SSSランク。
魔物危険度ランクが制定された時、まずは当時最強の魔物と思われていたミノタウロスをトップのAランクとし、そのミノタウロスを基準に魔物をランク付けすることとなった。
しかし後年、ドラゴン種など、ミノタウロスよりも強い魔物が見つかり、Aランクの上、Sランクが作られた…のだが、ドラゴンの中でも強さが大分差があることがまたまたわかり、Sランクはさらに三等分されることになる。
その頂点が、
つまり、このもふもふ犬は、現時点でダンジョン最強格の魔物ということになる。
「……早すぎるな」
どうやら、犬かどうかなんて気にしてる場合じゃなさそうだぞ。
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