第19話 SSSランクの未確認魔物



>いやいや、なんでSSSがこんなところにいるんだよ!?!?

>ついさっき第二階層でミスリルスライム出たんだし、今日に限っては不思議じゃない

>いや、あれはおパンティンの神業から、群れのボスとして出てきたから筋は通るけど、この魔物は急に現れたからな

>ダンジョンの主がブチギレて送ってきたんじゃない?

>なんじゃそれ。ちっさ

>フェル○「ちっさ」

>それは器じゃなくてち○こだろ

>ランク測定アプリなんて当てにならない。戦いって結局のところ相性だからな。むしろヤバイのは、相手が新種ってこと

>そう。マジで事前情報が一個もないのがやばい。相手が何をしてくるかわからないって相当脅威よ?  

>ま、まぁ、いってもミノタウロスを薄切り肉にしたあの刀があるからさ!

>少なくともミノタウロスよりは絶対に柔らかいもんな

>見た目犬っぽいから細切れにしたら面倒な連中から苦情来そう



「バウワウ!」


 もふもふ犬が高らかに吠え、純白の羽を羽ばたかせる。

 すると、羽から実体化した魔力の粒子が舞う。フケみたいでちょっと不潔だ。


 その魔力が一箇所に集まると、赤黒く染まっていき、やがて、一つの鉱石に変化した。ダンジョンで取れる鉱石、爆発石に似てはいるが……。


 その鉱石は、空中できゅるきゅると回転し、


 バン!!!


 と銃声のような音を立てて、俺目掛けて物凄いスピードで飛んできた。


 もし本当に爆発石なら、接触は危険か。とりあえず回避を選択。鉱石は加速しながら、隣の山まで飛んで行った。


 ……どっごおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!!!


 それは、火竜のブレスなど霞んでしまうほどの、大爆発だった。


 爆風によって、悠里さんが吹き飛びそうになったので、抱き寄せて支えながら、爆発の行方を見守る。山は、まるで出来のいいドミノ倒しのように、ポロポロあっさりと崩れていった。



>ええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?

>爆発魔法!?!?!?!?

>なんだこの威力!?!?!? 

>タっくん助けて!!

>おいおい、今まで出てきた魔物と規模感違いすぎないか!?!?

>SSSなんだから当たり前だろ!!!

>カメラマンさんおパンティンをおいて逃げて!!!

>おパンティンもちゃんと逃げろよ!!!! ネタコメしてる場合じゃないだろ!!!

>いや、ネタでもなんでもなく、しんがりが必要。おパンティンだったらカメラマンさんが逃げ切れるまで時間を稼げるはず



「ぐぎゃああああああああああああああ!!!!!」


 と、ぽかんとしていた火竜が、その脅威を見せつけられ、慌ててもふもふ犬に目一杯の威嚇をする。空気がビリビリ揺れ、音割れしたのかコメント欄も悲鳴だらけだ。


 しかし、その意中の相手もふもふ犬はと言うと、火竜など全く眼中にないようだ。輝きすぎて感情の読めないエメラルドの瞳は、じっと俺を捉えている……俺を、というよりは、俺の股間を捉えている。ちょっと殺意高すぎませんかね?


 もふもふ犬は俺を、俺は火竜を、火竜は謎の魔物を狙っているという全く需要のない三角関係になってしまった。ヒロインは火竜かな?


 この三角関係を解消するには、この俺を付け狙うもふもふ犬を消し飛ばせばいい。


 しかし、それはそれで、今後の活動を考えると厄介なのである。


 例えば、火竜をひのきのぼうで倒した後に、『火竜を安物の剣だけで戦ってみた!』なんて動画をあげたとして、視聴者に緊張感を与えることはできない。”安物の剣”よりも”ひのきのぼう”を使った方が、余程難易度の高いからだ


 火竜よりも弱い魔物をひのきのぼうで倒したとしても、同じ理屈で同じことが言える。今後の戦ってみた企画のネタ切れを考えると、俺のおパンティンとしての処女作に、S−の火竜を選ぶのは、結構勇気のいる決断だったのだ。


 しかし、俺がおパンティンになったのはここ数日の話だが、『おパンティンTV』自体は五年も活動していて、登録者は1000人ちょっと。

 それも334人にまで減り、配信者としては正直崖っぷちだったので、魔物を選んでいる余裕なんてなかった。


 しかし、バズったあと、しかも相手がトリプルSSSとなってくると話が変わる。


 俺がいかに手加減せずにあいつと戦い、あいつに勝利したとアピールしたところで、単独でトリプルに勝てる男、と思われてしまう。

 

 今後どのような厳しい制限を加えようと、余裕で勝ってしまうんだろうという印象を視聴者に与えかねない。


 それは、『おパンティンTV』的に、あまりに大きな損失といわざるを得ない。


「さて、どうしたもんか……」


 俺がポツリと呟くと、コメント欄が>さっきの魔剣使えよ!! で埋まる。


「ああ〜……不知火は、一日一回しか使えないから」



>えええええええええええええええええ!?!?

>マジかよ!?!?

>なんでそんなもん中層で使ったんだよ!!!

>それじゃあとっとと逃げろ!



 …確かに、逃げるのが最善か?

 

 火竜なんていつでも倒せるし、第一、道中で実力があることはそれなりに証明できただろうから、半数くらいはフェイクではないことを信じてくれるだろう……よし。


「カメラマンさん、撤退しましょう!」


「バウワウ!」


 わかった、と悠里さんが答える前に、もふもふ犬が鳴く。今度は空中に水色の鉱石の礫が、いくつも出現した。


 礫が、俺目掛けて、先ほどより二段階は速いスピードで飛んでくる。悠里さんでは回避できそうにない。仕方ない。ここはシールド魔法を使うか。


 俺は俺と悠里さんを覆うように半円状のシールドを展開する。水色の礫がシールドに触れた、その瞬間。


 ガキンッ!!!


 あたり一体が、氷の結晶に包まれたのだった。



>炎魔法の次は氷魔法!?

>火山エリアで氷魔法かよ!?!?

>環境に左右されてないどころか、環境を変える魔法なんて超高度だぞ!!

>鉱石の色で魔法の種類を分けてるのか!?

 


 その間に、もふもふ犬は翠玉色の宝石を生み出すと、それをクルクルと俺たちの周りで回転させ始めた。


「バウワウ!」


 鉱石が割れると、びゅうびゅうと音を立てて、風が吹き荒れ始める。


 風は明らかに俺たちをとり囲うようにふいており、巻き込まれようものならパンティさえズタボロにされてしまいそうだ。


 さて、これで逃げることもできなくなった。いや、正確に言えばできないことはないけど、流石に生配信ではそこまで見せられないな。


 ……俺は馬鹿か。一旦配信切っちゃえばいいじゃないか!!


「えー、ということでみなさん、非常にいいところなんですが、ここらへんで配信の方、終ろうと思います。さようなら〜」



>は?

>はぁ!?!?!?!?

>いいわけないだろ!!!!!

>馬鹿か!!!!!!!

>この頭パンティ!!!!!



「……これ以上の配信は、視聴者たちに嫌なものを見せてしまうかもしれないのでね」



>死に目を見せないとか猫かよ!!! 諦めんな!!

>これやばいってなったら自分で配信切ることくらいできるわ!!

>同接20万人突破!! みんなおパンティンのこと応援してる!!

>拡散してもっと同接増やそう!! おパンティンに力を届けるんだ!!

>みんな、パンティも被ろう!! 俺のパンツ、三日間洗ってなくて臭いけど、おパンティンが勝つまで絶対脱がない!!

>おパンティーーン!! がんばれーーー!!!



「……まいったなぁ」


 消すに消せなくなってしまった……仕方ない。適度にやりますか。

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