第7話 超人気インフルエンサーから動画のヒントを得る


 この学園は、魔物との戦闘が避けられない探索者を育成する場所ゆえに、『武道場』なる物騒な施設がある。


 本来は授業でしか使っちゃダメなんだが、二宮ほどの天才ともなると、その程度の自分勝手は許されてしまう。行き過ぎた実力主義ってのもよろしくないよな。


「トドメだ!」


 木刀が、俺の脳天に打ち下ろされる。


「ぐはぁぁぁっっっ!!」


 俺は渾身のリアクションをして蹲み込み、涙目で「た、タンマ!! もう無理、降参だ!!」と、両手を上げた。


「はい、アレンのかちー」


 審判を務めていた二宮ハーレムの一人、ギャルエルフが気だるげに言うと、ギャラリーたちは俺を醒めた目で見て、ため息混じりに闘技場を去って行く。あまりに見慣れた光景に、いい加減飽き飽きしているのだろう。


 そんな中、一人楽しそうなのは二宮だ。


「はっ、相変わらずキミは弱いな! 何でこの高校に入学できた? ああ、キミのご両親のおかげだったね。悪い悪い」


 俺を一方的にボコボコにしたことで、ずいぶんストレス発散になったようだ。

 イキイキと暴言を吐いてくる。わざと負けたことは一切悟られていないようなので、まあそれは良かった。


 当然、二宮に勝つようなことはあってはならない。

 探索者としての実力が全てのこの学校で、二宮に勝つと俺が人気者になってしまうというのもあるが、何よりこのプライドの塊のような男に粘着されるからだ。俺の実家の住所をSNSで晒す、くらいのことは平然とやってくるだろう。


 それに、リアクションの練習にもなるっちゃなるしな……。


 俺は起き上がって、いつものように二宮が去るのを待っていた。


「はぁ、キミは本当に弱いから、殺さないよう手加減するのに疲れてしまった」


 しかし、二宮は去ろうとしない。どうやらまだストレス発散したりないようだ。


「というか、大丈夫なのかい? 『この探!』で、キミの親の順位が、おパンティンとかいうふざけた配信者のせいでランク外になっていたが、このままではボクが何をしなくても退学だねぇ」


「うーん、確かにまずいかもなぁ」


「そうか! ああ、寂しくなるね。キミとは何だかんだ古い付き合いだからなぁ……信じられるかい? キミとボク、同じ神童として扱われてたんだよ?」


「ははは、確かに確かに」


 怠いなぁ。とっととどっか言ってくんないかしら。


「……そういえば、キミ、似ているな」


「え、何に?」


「おパンティンとかいうふざけたダンジョン配信者だよ」


 げ、と表情に出さないよう、俺は細心の注意を払った。


 単純に笑いの邪魔になるのでバレたくないって言うのもあるが、こいつにバレるのはとにかくまずい。

 いくらネットの工作のせいといったところで、こいつは1位の座を奪ったおパンティンへ理不尽な怒りを抱いているのは間違いないからだ。


「そうかな。似てるっていうけど、おパンティンって確かパンティ被ってるよね。顔わからないだろ?」


「いや、似ている……ネット上でしかイキることしかできない陰キャって、大体同じような容姿をしているということだろうか。チー牛、というんだっけね。キミたちのような人間の喩えに使われるなんて、チーズと牛丼が可哀想だ!」


「ははは、そうかもね」


 どうやら、俺へのディスのためにおパンティンを利用したようだ。俺はともかく、おパンティンへの悪口はどうにも腹立たしい。


 しかし、否定してはダメだ。子供の頃から神童と言われチヤホヤされてきたこの男は、否定に対する耐性が異様に低いのだ。


「『おパンティンTV』というチャンネルも全く面白くなかったし、彼、今後どんな人生を歩んでいくんだろうね。心底同情するよ。ああ、もちろんキミほどではないけどね」


「……面白くない? いや、面白いだろ『おパンティンTV』は」


 そう思ったのも束の間。


 こんなことを言われてしまったので、俺はつい言い返してしまったのだった。

 

 すると、二宮は一瞬意外な顔をしたものの、すぐに意地悪そうに笑った。


「あぁ、なんだ、あのダンジョン配信者のファンだったのかい? 同じ探索者の底辺同士、分かり合えるところでもあるのだろうか? 底辺同士の傷の舐め合いなんて、地面を舐めているようなものだから、不衛生だしやめておいた方がいいんじゃないかい?」


「……ファン、ではない」


 今は俺がおパンティンなので、ファン気分じゃいられないからな。


「けど、面白いものは面白いだろ。火竜相手にあんだけ身体を張っていて、最終的に火竜をひのきのぼうで倒したんだぞ?」


 すると、二宮は変なものでも見るように眉根を潜めて、大袈裟に肩を竦めた。


「キミは本当に愚かだね。あんなもの、全部フェイクに決まっているじゃないか! フェイクなのに身体張っているとは、一体どんな冗談だ?」 


「いや、それは、あれは実際に……そっ、そうか、なるほど!」


 俺が勢いよく立ち上がると、二宮が「なっ、なに!?」とびくりと肩を揺らす。


 俺としたことが、掲示板や『この探!』のせいだとばかりにしていて、自分に矢印を向けられていなかった。


 【緊張の緩和】の理論は、緊張あってこそ成り立つ理論。


 火竜との戦いという【緊張】が、視聴者からすれば【フェイク】に見えているのなら、緩和したところでなんら意味がない。


 どころか、フェイクで緊張を作り出そうとしている卑怯者として、冷めた目で見られるのは当然の流れだ。


 変なバズり方をしたせいで、動画の内容を見てもらえてなかっただけじゃない……俺の動画の作り方そのものに、まだまだ改善点があったんだ!!


「二宮、ありがとう!」


「……は、はぁ!? キミのような人間に感謝される覚えない!! 訂正しろ!!」


「え? ああ、それじゃあ取り消すよ」


「はぁ!? ふざけるなよ!! キミのような底辺がボクと会話できていただけでもありがたく思え!」


 「どっちだよ!!」なんてベタなやり取りをしている時間はないので、俺は二宮を無視して、闘技場を飛び出したのだった。





――――――――――――――――――――――――――――――――

ここからは、生配信でのダンジョン攻略編に突入します!

毎日更新頑張りますので、面白いと思っていただけたら☆やフォローなどでの応援よろしくお願い致します!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る