第8話 初めての生配信


「と、いうことで、まずは今後動画がフェイクと疑われないように、俺の探索者としての実力を証明するべきではないかと思っているのですが……」


 俺の提案に、悠里さんはこんな案を返してくれた。


「それなら、生配信がいいかもしれないね」


 ダンジョン生配信。


 編集の必要もなく、スパチャという課金制度もあるので、ただ自分の強さを誇示したい探索者にとっては一番適した配信方法だ。


「はい、やらせてください!」


 ……しかし、この俺が、まさか自分の強さを証明しようだなんてな。本当に何もかも、おパンティンに変えてもらったんだな。


 ということで、次の日の放課後。東京都最大のダンジョンのある代々木公園に、俺たちはいた。

 

 俺は探索者カードを入り口の読み取り部に当てると、探索者ギルドの扉がウィンと開く。


 すると、既にギルドの中にいた探索者の視線が、俺たち二人に集中する。


 エルフ耳を隠せるつけ耳も含め、ばっちり変装しても抑えきれない悠里さんの美貌もそうだけど、今回ばかりは俺に責任がある。


 何せ、気合を入れるためすでにパンティを被っているからな。通報されていないだけ感謝しないといけないだろう。


 ただ、この前来た時とは、注目のされ方がちょっと違う。


「あれ、おパンティンじゃない?」


「嘘、マジで!? 『この探!』で1位になったあの!?」


「え、あれって組織票だったんだよな。よくダンジョンに来られるな」


「なんでパンティ被ってるの?」


 遠巻きのヒソヒソ声と刺さる視線。慣れちゃいるが、嫌なものは嫌だ。


 俺はせめてもの抵抗として、「パンティなんて被ってませんよ?」みたいな態度で入っていったが、「パンティ被ってるくせにパンティ被ってないみたいな態度とってる……」と、むしろヒソヒソされてしまった。


 あっけに取られているギルドの受付員に探索の許可をもらってから、俺と悠里さんはギルド中央にある階段へと歩み寄る。


 ここをくだれば、そこはダンジョンの中。

 人間サイズ的に降りやすい階段も、ダンジョンと一緒に現れたというのだから、もう誘い込まれているとしか思えない。


 しかし、罠だと分かったとしても、我々はダンジョンに潜りたいという欲望を抑えきれないだろう。


 ――それほどの魅力が、ダンジョンにはあるのだ。


 長い階段を降りた先は、ダンジョン一階層。

 さすがに入り口付近は人通りが多いので、撮影に向いたところまで移動する。

 

「生配信は動画とは一味違うから、緊張して当然だ。ラビくんとはいえ、そんな状態で、火竜と戦わせるわけにはいかないから、まずは上層で慣らしてから行こう」


 という話も、悠里さんと事前にしていた。大丈夫だと思うけど、師匠の言うことは絶対だからな。


 生配信中のコメント欄が見れるよう、ARコンタクトレンズをつける。悠里さんはカメラを構えると、「3…2…1…」とカウントダウンを始める。


 ここからは、一つのミスもカットできない生配信だ。跳ね上がる緊張の中、俺は強張る口を開いた。


「ひゃっ、ひゃらえない日動を怒ってる将校! ブリーフの穴からち○こポロン! おっとととっとっとおパパパパパンティだっ!」


 ふぅ。何とか噛まずに言えて、ほっと一息。


 すると。



>きたあああああああああああああ!!!!

>通知来たから飛んできた!!

>『この探!』一位おめでとうございますwww

>謝罪配信かな?

>パンティ被ってる!

>マジでパンティ被ってるやん。汚ったな

>ネットのおもちゃになった気分はどう?

>あの動画って本物なの?

>本物なわけねぇだろwwww

>今すぐ二宮アレンに謝れ。キミのようなふざけた配信者のせいで2位になったんだぞ

>アレンくんに謝って。



「ふぇっ!?」

 

 とんでもないスピードで流れるコメントに、思わず平成萌えキャラみたいな声をあげてしまった。


 観覧者数は……10000人!? それってつまり、10000人から見られてるってコト!?


「ゆ……カメラマンさん、同接10000人って、10000人に見られてるってことですか!?」


「え? あ、うん、そうだね」



>当たり前だろ

>何言ってんだこいつ

>もしかしてアホ?

>そりゃパンティ被ってるくらいだしな

>めちゃくちゃビビってるやんけ。まぁ底辺配信者がいきなりこんだけの人間に見られたらな

>こうやってみるとただのガキじゃね? ネットのおもちゃにされるには若すぎるわ

>カメラマン女の子? 顔見せて

>こんな底辺配信者のカメラマンが女の子なわけないだろ

>今登録者10万人だから、底辺ではないぞ

>てか同接も10000人突破してるし、普通に一流配信者だろ



 うぉぉ……


 確かに、悠里さんの言う通りだった。動画とはまるで緊張感が違う。


 今この瞬間、先ほどギルドで俺を見てきたような目が、20000個も向けられていると思うと……全身に鳥肌がたって、バクバクと心臓が不規則に早鐘を打ち始めた。


 このままじゃまずい! 俺は、胸を叩いてなんとか鼓動を落ち着かせようとした。


「ゴホッ!?!?!?」


 と、威力が強すぎたせいで、思い切り吐血してしまった。



>え、えええええええええ!?

>血吐いた!?

>なんか知らんけど、上層でやられてるようじゃやっぱフェイクだね!!



 まずい! お笑いに赤はご法度だと言うのに、俺は何をやっている!!


 俺は吐き出した血を瞬時に空中で掴み、思いきり握り込むことで血を凝固させる。

 そして、すぐさまポケットに詰め込み、血塗れのパンティを魔法で綺麗にした。あ、もちろん悠里さんのシミは残してある。



>え? 血が消えた? 

>確かに今吐血したよな?

>いや、見間違いだろ。パンティも黄色い染みしかついてないし

>汚ったな



 ふぅ、なんとか誤魔化せたようだ。


 一度吐血したおかげか、多少緊張が和らいだ。俺は咳払いをして、悠里さんが差し出すカンペを読む。


「え、えー、先日投稿した『【魔法無し】火竜とひのきのぼうで倒してみた【命懸け】』という動画が、フェイクじゃないかと言う意見があったが、それは大きな間違いだ! あれは正真正銘、本物である!」


 すると、ピタリとコメント欄が止まった。

 なんだ、回線が悪いのか? と思ったのも束の間。



>おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

>本物宣言来たwwww

>これは面白くなってきましたwwww

>まぁ、もう引っ込みつかないよな

>嘘松乙

>底辺配信者から抜け出すためとはいえ、嘘はいけないね

>炎上不回避

>俺はおパンティンを信じるよ! 実際掲示板の解析班もあの動画は本物だって言ってたしな

>解析班× 暇を持て余したニート○

>なんでパンティ被ってるんですか?

>逆になんでお前はパンティ被ってないんだよ。今季のトレンドやぞ。



 爆発的にコメント欄が盛り上がったのだった。


 といっても、明らかにいい盛り上がり方ではない。やはり、疑いの目を向けられているようだ。



>もし本物だというのなら、今から生配信でキミが火竜をひのきのぼうで倒して証明すればいい。まぁ、無理だと思うけれどもね



 その時、ちょうどいいタイミングでこんなコメントが来た。


「皆の疑う気持ちは理解できるし、ただ口で本物だと言ったところで信じてもらえるとは思っていない! そこで、今コメントにもあった通り、ここから火竜を倒すところまでのダンジョン探索を生配信しようと思う! 今回はあくまで証明のための配信なので、前の動画ほど笑えるところがないかもしれないが、そこのところはご勘弁願う!」



>うおおおおおおおおおおおお!!!!

>マジかよ!?

>おパンティン、やるんだな、今ここで!

>これは全裸待機

>さすがに生放送だからフェイクは難しいか?

>こんなどでかいミミックに引っかかってる奴がいるのかよ

>ミミックってわかって楽しんでんだよ

>ミミックだとしても、こんなドン○の薄っぺらいコスプレ衣装とパンティだけでダンジョン潜ってる時点で見る価値あるわ

>いや、マジで一階層で死ぬのがオチだって。今すぐ引き返せ



 やはり、コメント欄は否定的な意見が多いな……このまま否定され続けるとメルタルに良くなさそうなので、とっとと終わらせるか。


「それでは、ダンジョン探索を始める!」


 俺は悠里さんに視線で合図してから、ダンジョンを進んでいくと、早速、目の前から魔物の気配を感じた。


「ぐぎゃっ」

 

 一匹のゴブリンが、姿を表したのだった。

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