第9話 生配信で初戦闘



>ゴブリンか……

>クソ雑魚じゃん。せめて中層から配信始めろよ

>いやみんな舐めてるけど、普通にどうすんの? おパンティンまともな装備もしてないけど

>そりゃ、火竜をひのきのぼうで倒せるんだから、ゴブリンなんか素手で倒せるだろ

>素手で魔物wwwエアプにも程があるわwww

>素人とか、魔力を身体に纏ってたら防御力が上がると思ってるからな

>え? シールドとか実際に攻撃から守れてない?

>あれは、魔法によって実態化&硬質化した魔力、な。その過程も辿ってないただの魔力が相手の打撃から自分を守れるくらい硬いんなら、日常生活とかに支障出まくりだろ

>候補としては、魔力の剣を作り出すことだな。殺傷能力を持たせないといけないから、シールドよりも全然難しいけど



 コメント欄の反応を見るに、こいつを倒したところで、なんの証明にもならなそうだ。すぐに吹き飛ばして……。


(いや、待てよ)


 今、視聴者は、俺が火竜を倒せる探索者であることを期待しているはずだ。


 そして、事前に今回はネタ成分が薄いと言っておいたことによって、偶然ではあるが、見事にフリが効いている。


 これ、爆笑をかっさらう最高のチャンスなんじゃないか!?


「ぐぎゃっ!」


 と、ゴブリンが、高く飛び上がり、俺の脳天目掛けて棍棒を振り下ろす。止まって見えるくらいに遅いので、俺は今か今かと待ちわびた。


 直撃。


「ぐわああああああああああああ!!!!!!!」


 その瞬間、俺は身体の内部で魔法を展開。

 まず、自分の身体をバネ状にして、ゴブリンの棍棒に合わせてググッと50cmくらいまで縮んだ。


 そして、そのバネの反動によって、ビュンと神速で飛び上がると、5メートルほどの上にあるダンジョンの天井に思い切り頭をぶつけた。


「あぃったああああああああああ!!!!」


 よし、マジで自分の頭をかち割るつもりで飛んだから、本気で痛い!! おかげでいい感じの悲鳴をあげることができたぞ!!……ただ、本番はここからだ!!


 俺は頭を押さえながら、尻から地面に着地する。人間の部位で一番面白いのは尻なので、これからも何かと酷使することになるだろうな。


「……いてててててて」


 そして俺は、頭に名一杯力を込める。すると、ぷくぷくと頭皮が動く感覚がした。


 そのふくらみたちは一体になると、順調に成長を遂げ、やがて、俺の顔と同じくらいに大きなタンコブになった。


「うわ、めっちゃでっかいタンコブできちゃった!」


 身体変形魔法。俺のオリジナル魔法だ。


 火竜のような、強烈な攻撃をしてくれるような魔物なら、こちらもその攻撃を受けた時そのままのリアクションをすれば面白くなる。


 しかし、ゴブリンのようなクソ雑魚魔物の攻撃では、痛くも痒くもないから、こちらとしても面白いリアクションができない……なんて言い訳は、パンティを被ったからには許されない。


 攻撃が大したことがないのなら、こちらがオーバーリアクションしてやればいいのだ。


 確かあれは、ラウンド1で悠里さんと遊んでた時に聞いたんだったか……『伝説のおでん系お笑い芸人は、六十度ほどのお湯を、まるで百度の熱湯かのようにリアクションする。それこそがプロというものだ』。


 事実、悠里さんはオーバーリアクションによって数々の撮れ高を稼いできた。俺にはその技術がない分、無駄に才能のある魔法で補うしかないと、急いで習得したのだ。


 どうだ、面白いだろう!!



>は?

>え?

>何が起こった?

>ゴブリンにやられるとか……クソ雑魚じゃん。期待して損した

>即落ち二コマかよ……

>見るのやめます

>やはり火竜をひのきのぼうで倒したのは嘘だったようだね。みんな登録解除して、代わりに今回の被害者の二宮アレンのチャンネルを登録しよう

>ざぁこ♡ざぁこ♡

>ゴロゴロコミックでも見れないベタなリアクションだな

>いや待て待て、今のもしかして魔法か? 身体が変形する魔法なんてあるのか知らんが

>そんな魔法聞いたことないって。単純にゴブリンに殴られてバネっぽくなったり顔と同じくらいのタンコブができるくらい貧弱なんだろ

>いや、なんならそっちの方がすごくね? どんな特異体質だよ



 そして、全く草の生えていないコメント欄に、スッと血の気がひいていった。


 俺はすぐさまタンコブを治すと、パンパン膝を払って何事もないみたいな顔して立ち上がった。


 やはり、ゴブリン程度の攻撃じゃまともなリアクションなんかできっこない。そう、なんもかんも全部、ゴブリンが悪いんだ!


 俺は八つ当たりとして、あまりの手応えに(え、俺、なんかやっちゃいましたか?)と戸惑いを隠せていないゴブリンを、思いっきりぶん殴る。


「ぶるぎゃっ!?!?」


 その瞬間、ゴブリンは塵となって消え去ったのだった。



>あれ、ゴブリンどこ行った? 逃げた?

>いや、こんな極上の獲物相手に逃げたりしないだろ

>おい待て。今パンチでゴブリン吹き飛ばさなかったか?

>いやいや、二十年間探索者をやってる俺が視認できないパンチとかありえないぞ

>おっさんだから動体視力衰えてるんだろ

>おっさんじゃないわ! まだ三十代!

>おっさんじゃん



「そ、それじゃあ、先に進もう!」


 俺は生でスベッたことへのショックのあまり、飛び出そうになる心臓を押さえながら、ガクガク震える足に鞭打ち、ダンジョンを進んだのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る