忠霊塔（転 進）

第45話 砂浜の再生兵

　最後のカッターが駆逐『アキクモ』に横付けする。

網梯子を残兵達が必死に登り始める。

負傷兵に手を貸す負傷兵。

　負傷兵A「すまんのう。指を飛ばされてしまって・・・」

　負傷兵B「何を言ってる。一緒に帰るんだ。ほら、右足！ 右足を上げろ・・・そうだ」

　負傷兵A「すまん。すまん・・・」

　艦上の菊池中佐、「木原少尉」、「関元曹長」、「福原軍曹」、「河野上等兵」、「木村上等兵」、「大宮一等兵」、「森二等兵」が手すりに掴まり、今まで居た岬を見ている。

菊池中佐が岬で手を振る数十人の残兵（幽鬼兵）を見付ける。

　菊池「あ！ まだ兵が居る。 戻れッ！ 彼等を乗せなければ」

甲板の水兵が、

　水兵「だめです！ 陽が昇っています。午前中に撤収を終了せよとの艦長の命令です」

菊池中佐は水兵を睨み、

　菊池「キサマ、仲間だぞ。戻れ！ 艦長を呼べ！」

　水兵「ダメです！」

　木原「おい、水兵！ 頼む。もう一度戻ってくれ」

　水兵「だめです！ 戻ったら、全員やられます。三日後にもう一度、救助隊が来ます。そちらに任せましょう」

　関元達六人「頼む！ 頼む。何とか戻ってくれ・・・」

　木原「お願いです。仲間なんです。戻って下さい。あの兵隊達は・・・命の恩人なのです」

　菊池「・・・諦めよう。彼等には申し訳け無いが・・・」

菊池中佐はじっと岬の砂浜を見詰めて唇を噛みめる。

関元達六人は砂浜に立つ再生兵達に「挙手の敬礼」をして、深く『合掌』する。

四隻の駆逐艦のスクリュー音が不規則に唸りだす。

木原達を乗せた駆逐艦が船主を返し、徐々に速度を上げて行く。

すると一隻の警戒駆逐艦が急に船主を返し、餓島（ガダルカナル島）の岸に近づいて行く。

それを見ていた菊池中佐が水兵に、

　菊池「？ あの艦は何をしているんだ」

　水兵「？ 分りません」

　木原「・・・やられるぞ」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく