第44話 野村伍長(再生兵)が消えて行く

 太陽が熱く照らし始める。

菊池部隊の最後尾の兵士がカッターに乗り込もうとする。

その兵士は振り向いて、


 兵士「伍長殿。先に乗って下さい」

 野村再生兵「俺は良い。構うわずに早く乗れ!」

 兵士「? 乗らないのですか?」

 野村再生兵「良いんだ。まだやり残した事が有る。行け!」


兵士は怪訝な顔をしてカッターに乗り込む。

兵士が振り向くと野村再生兵は消えている。


 兵士「伍長殿!? あれ?・・・伍長殿、・・・何処に行ったんだろう」


 菊池中佐が周囲を確認して最後のカッターに乗り込む。

四人の水兵が挙手の敬礼をして砂浜に立つ。


 水兵「ご苦労様でした。菊池部隊は以上でありますか?」

 菊池「うん?・・・」


菊池が傍に居る木原少尉を見て、


 菊池「おい、少尉」

 木原「はい」


菊池中佐がもう一度、木原に確認する。


 菊池「さっきまで隊を先導してくれた、あの准尉と軍曹は乗ったのか」

 木原「え!? あ、はい。乗っている筈です」

 菊池「そうか・・・」


菊池中佐は水兵を見て、


 菊池「以上だ」

 水兵「はい! では・・・出発します」


最後のカッターが岸を離れる。

カッター内で菊池中佐が木原を見て、


 菊池「キサマ等は第2師団だったな」

 木原「はい。早坂中隊です」

 菊池「キサマの部隊はいったい何人残ったのだ」

 木原「七人・・・でしょうか」

 菊池「七人? さっき佐々木とか云う准尉に確認したら三二と言ったぞ」


木原は黙ってしまう。


 菊池「まあ良い。何処かに乗ったのだろう」


菊池中佐達を乗せたカッターが海原を進む。

痩せた菊池中佐が迎えの駆逐艦を見ながら一言。


 菊池「・・・此処の戦いは悲惨だったなぁ・・・」

                         つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る