第40話 軍服が汚れてない兵士

 藤田中尉が野村再生兵に尋ねている。


 藤田「野村伍長は何処に居(オッ)たのだ」

 野村再生兵「浜です」

 藤田「ハマ? あそこで?」


野村再生兵の全身を見る藤田。


 藤田「怪我は無いのか?」

 野村再生兵「ハハハ、怪我だらけですよ」


藤田は不気味な眼で野村再生兵の「汚れてない軍服」を舐めるように見る。


 藤田「キサマ、それで怪我をしてると言うのか? 歩けるじゃないか」

 野村再生兵「そうですね」


藤田は立ち止まり、


 藤田「オマエ?・・・」


 佐々木再生兵が菊池の前を進む。

菊池中佐は前を歩く佐々木再生兵の『新しい軍装』を見て、


 菊池「おい、オマエ等の戦闘は無かったのか?」


佐々木再生兵は黙っている。


 菊池「? オマエは・・・?・・・」

 佐々木再生兵「中佐! 私はあなた達を一兵たりとも残さずさこの島から撤退せる責任が有ります。黙って私達に付いて来て下さい」


菊池は立ち止まり、不気味そうに前を行く佐々木再生兵を見ている。


 行列に紛れ込み、必死に疲れ果てた兵士達を支えている再生兵達。

細いジャングルのケモノ道。

やつれた負傷兵達が『蟻の行列』の様に進んで行く。

いつの間にかシンガリに付いている『西山再生兵』。


 西山再生兵「おい、遅れるな。頑張れ。しっかり付いて行け」

 斉藤再生兵「頑張れ、頑張れ。皆で故国へ帰るんだ」


兵士達は泣いている。

残兵達がどんどん膨れあがる。

「皮だけ」の一人の兵士が、後ろの「骨だけ」の丸腰の兵士に話しかける。


 皮だけの兵士「おい! オマエは何処の部隊だ」

 骨だけの兵士「石井部隊だ」

 皮だけの兵士「石井部隊? 何人残った」

 骨だけの兵士「二九」

 皮だけの兵士「二九? 上陸時は」

 骨だけの兵士「三百だ」


皮だけの兵士は驚いて


 皮だけの兵士「三百で二九か・・・。大変だったのう」

 骨だけの兵士「・・・何日もろくな物喰ってねえんだ。あまり話しかけないでくれ」

 皮だけの兵士「そうか。・・・よかったら、これを喰え」


皮だけの兵隊が雑嚢から煮干しの様な物を取り出して、


 皮だけの兵士「ほら、喰え」

 骨だけの兵士「? スルメか」

 皮だけの兵士「・・・乾燥トカゲだ」


骨だけの兵隊は表情も変えずに、ジッと 差し出された「黒いトカゲ」 を見ている。

                          つづく

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