第39話 増える残兵

 深夜。

『エスペランサ(希望)岬』に向かう菊池大隊。

菊池大隊長(菊池源一郎中佐)が藤田中尉に、


 菊池「・・・おい、この方角で間違いないだろうな」


藤田は菊池の傍に来て図嚢カバンから地図を出す。

懐中電灯の灯りを絞り、地図上に方位計を置く。


 藤田「・・・間違いないと思います」

 菊池「この先から川の流れる音が聞こえる。地図には川なぞないぞ」


藤田は耳を澄ます。


 藤田「そうですねえ・・・。迷いましたか?」

 菊池「バカ者! 六百の兵が付いているんだ。しっかりしろ! あと三日しか無いぞ」

 藤田「はい!」


沢田(沢田神治大尉)が後方から走って菊池大隊長の傍に来る。


 沢田「報告します! 兵がどんどん増えています」

 菊池「何?」

 沢田「ジャングルの中から合流して来る様でありす」


振り向く菊池と藤田。

遥かに続く残兵(撤退兵)の長い列。

菊池大隊長が、ふと月夜のジャングルの奥を見る。


 『丸山道』の林の中に二つ、「人影の様なモノ(再生兵)」が立って居る。


 菊池「おい。あそこに誰か居るぞ」


眼を凝らし、銃を構えて近付く沢田。

沢田の合言葉が。


 沢田「ヤマ!」

 影 「カワ」

 沢田「カワ?」


藤田が菊池の傍に来て、


 藤田「味方ですねえ・・・」


菊池の傍に近寄って来る二つの影(再生兵)。

影は「兵士の様?」である。

二つ兵士(再生兵)は立ち止って、菊池に挙手の敬礼をする。

兵士A(再生兵)が、


 兵士A「第二師団・岸本部隊・早坂中隊・佐々木 誠准尉であります!」

 兵士B「同じく野村晋介伍長です!」

 佐々木再生兵「此処からは先は私達がご案内します」


菊池は呆気に取られて『二つの再生兵』を見ている。


 菊池「・・・岸本部隊? 俺達より後発だな。早坂中隊は何人残った」

 佐々木再生兵「三二です。一部はエスペランサ岬に向かってます」


菊池は驚いて、


 菊池「三二?・・・無傷か」

 佐々木再生兵「いえ」

 菊池「イエ? ・・・負傷兵も先行してると云うのか?」


怪訝な顔の菊池大隊長。

佐々木再生兵と野村再生兵は無言。

佐々木再生兵は菊池を見て、


 佐々木再生兵「急ぎましょう。時間が無い」


佐々木再生兵はサッサと先行して行く。

菊池が立ち止まって『佐々木再生兵』の後ろ姿を見ている。

                         つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る