第36話 正 夢(マサユメ)

 翌朝。

木原少尉が、


 木原「おい、起きろ。関元!」


関元曹長が頭を回しながら、


 関元「あ~あ、良く寝た。・・・昨夜、変な夢を見ました・・・」

 木原「バカッ! あれは夢じゃない。皆が知らせに来てくれたんだ。起きて早く一木(一木支隊)の生き残り兵に知らせるんだ!」

 関元「え〜ッ! あれは正夢(マサユメ)ですか?」

 木原「冗談言ってる場合じゃない。五日後だ! 早く行け」

 関元「行けって言っても、何処に」

 木原「飛行場だ」

 関元「そんな・・・」

 木原「皆を起こして手分けして探すんだ。俺は先に行くぞ」

 関元「ま、待って下さい。おい! 皆、起きろ!」


残兵五人が眠い目を擦りながら起きる。


 福原「い~あ、昨夜、変な夢を見たぞ」

 河野「え? 自分もです」

 三人「俺もだ」

 関元「夢じゃない。本物だ。早く起きろ! 行くぞ」

 福原「何処へ?」

 関元「良いから俺に続け。後で話す」


六人の残兵達が武器をぶら提げて、走って関元の後を追う。

 椰子の木陰に七人が集まっている。


 関元「アイツ等、何処に隠れているんでしょう」

 木原「飛行場近くの穴グラと言ってたな。よし、そこからは手分けして探そう。昼に成ったらあの椰子の樹の下に集まれ」

 六人「はい」

 木原「散開!」


走って捜しに行く木原達七人。

太陽が真上に上がっている。

福原が椰子の根元に座っている。

木村一等兵が戻って来る。


 福原「どうだった?」

 木村「分りません。分かる様な所には居ない筈です」

 福原「そりゃ、そうだな」


木原が戻って来る。


 福原「あ、少尉殿! どうでしたか?」

 木原「居ない。関元と大宮は?」

 福原「まだ戻って来ません」


暫くして関元と大宮が戻って来る。


 関元「いや~、分りませんなあ。穴グラなんてあちこちに有るし、友軍の砲撃で、ほとんどの椰子がすっ飛んじまって。随分、遠くまで見えるんですが・・・」

 大宮「夜まで待ちますか」

 木原「バカ者! キサマは生きて帰りたくないのか!」

 大宮「はい! 帰りたいです」

 木原「後は、河野と森が頼みか・・・」


河野上等兵が戻って来る。


 木原「おい、居たか」

 河野「居ません」


木原は腕時計を見て、


 木原「最後の頼みの綱は森か」


森はなかなか戻って来ない。


 関元「来ないなあ。アイツ、やられたか?」


暫くして息を荒げながら森 二等兵が走って来る。


 河野「あ、来たッ! 森が戻って来ました」 


森は木原の前に立ち敬礼をして、  


 森 「すいません。遅れました」

 木原「おお。心配したぞ。どうだった」

 森 「居ました!」

 六人「 居た?」


どよめく六人。


 木原「伝えたか」

 森 「ハイ! 多分、今日中には島に残る全兵に伝わる筈です」

 木原「そうか。よしッ! 俺達は先に岬に向かおう」

 六人「はい!」

                         つづく

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