忠霊塔（転 進）

第35話 再生兵が知らせに

　砂浜で夕飯の支度をしている七人。

ドラム缶を覗く森 二等兵。

　森　「あ、マッチが有りました」

木村一等兵が海水を入れた飯盒（ハンゴウ）を持って来る。

それを見て福原軍曹が、

　福原「塩水で飯を炊くなんて生まれて初めてだ」

　木原「俺達が此処でやってる事はみんな生まれて初めてだよ」

　関元「へへ、まったくですわ。此処で生き延びられたらどんな所でも生きられます」

　木村「俺達は人間ですか」

全員が笑う。

　夕飯の後、ヤシの根元で一服している七人。

　木原「米が上手く煮えてなかったな」

　関元「そうですか？ 腹が減ってたから分らなかったです」

木村が突然、

　木村「あの～・・・さっき、水を汲んでる時から気に成ってたんですけど」

　関元「何だ」

　木村「あそこに誰か居る様な気がして。それも、一人じゃない」

全員が木村の指先を見る。

　関元「ああ、あれは壊れた戦車だ。気にするな」

森はジッと見て居る。

　森　「あれ？ 動いていますよ」

　木原「おい、森、見て来い」

　森　「はい！」

森が３８銃を構えてそっと砂浜を進む。

暫くして森が叫ぶ。

　森　「少尉殿！ 皆、此処に居ますッ！」

木原と関元、福原が顔を見合わせる。

　関元「皆って誰だ？」

森の喜ぶ声。

　森　「早坂中隊長殿が居（オ）ります。中隊の皆が此処に集まってますよ」

　木原「まさか！」

　関元「先に逝った連中がですか？」

森の叫ぶ声が続く。

　森　「早坂中隊長殿、高橋軍曹殿、佐々木准尉殿、野村伍長殿、・・・あ、木村上等兵殿、西山、石井、飯田も、林、渡辺。おい、オマエ等、俺達の後ろに居たのか・・・。少尉殿！ 早く、早く来て下さい。全員此処（ココ）に集まってます」

木原達六人が３８銃を肩に掛けて立ち上がる。

関元は眼を凝らして黒い塊（カタマリ）を見る。

　木原「おいッ！ 行ってみょう」

七人が黒い塊（カタマリ）に向かう。

木原が驚いて叫ぶ。

　木原「あ～ッ！！」

早坂再生兵を先頭に、横一列に並んだ再生兵達。

木原を見て優しく笑う。

木原が叫ぶ。

　木原「中隊だッ！ 中隊が此処に在る。早坂中隊が全員此処に集まって居るぞ」

関元や痩せた敗残兵達は「故早坂中隊」を見て驚いて立ち尽くす。

木原は暫く次の言葉が出ない。

早坂再生兵は木原を見て、

　早坂再生兵「どうした」

　木原「早坂中隊長以下、英霊に敬礼！」

七人全員が不動の姿勢で挙手の敬礼をする。

再生兵達は何も言わず七人を見ている。

　早坂再生兵「おい。もう良い。此処には階級何か無い。在るのは思い出だけだ」

木原は納得した様に、

　木原「え？ ・・・はッ！」

木原が直る。

六人が敬礼を解く。

木原は早坂再生兵を見詰め、

　木原「一緒に逝けなくてすいません。」

　早坂再生兵「バカな事を言うな。此処で遭った事を伝えろ。生きて生きて生き抜くんだ。キサマ達の周りには、これだけの『再生兵』が憑いている。・・・もうこれ以上、キサマ等を死なせはしない」

　佐々木再生兵「俺達はこの島で永遠に戦います。故国（クニ）に戻ったら俺達の事を必ず家族に伝えて下さい」

　西山再生兵「頼みます」

　木原「俺達に捕り憑いて一緒に故国に帰りましょう」

再生兵達全員が優しく淋しげに笑って木原達七人を見る。

すると佐々木再生兵が一歩前に出て来る。

　佐々木再生兵「あと五日（二月一日）したらエスペランサ岬に救助部隊が来ます。間違えないで下さい。『五日後』ですから」

　早坂再生兵「この島にはまだ多くの残兵が居る。速やかに『エスペランサ岬』に集めろ。時間がないぞ。一兵たりとも、この島に残すな」

　高橋再生兵「皆さん、無事に撤収して下さい。ワタシ達全員が兵士達を安全に見守ります」

　早坂再生兵「木原！ 頼んだぞ。必ず故国に戻ってオレ達の事を家族に伝えてくれよ」

再生兵達は月夜の砂浜から笑顔で消えて行く。

　木原「あッ！ お待ち下さい。早坂中隊長殿・・・」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく