第34話 一木支隊の残兵
七人の野鼠(残兵達)が椰子の根元に寝転び星を見ている。
関元「星に成りてえなあ」
木原「そうだな。星に成れば俺の家も見えるしな」
福原「森、今日は何日だ」
森 「分りません」
大宮「戦争何てバカらしいですねえ」
河野上等兵が懐かしそうに、
河野「内地はどうなってるのかなあ」
砂を踏む音がする。
木原「シッ! 誰か来るぞ」
関元は体勢を立て直し38銃を構える。
七人が息を殺す。
関元が小声で、
関元「ヤマ!」
黒い影が小声で、
声 「・・・タニ」
関元「タニ? おい、何処の部隊だ」
声 「一木!」
木原「イチキ? 一木支隊か!」
人影が、
声 「そうだ。キサマ等は」
木原「丸山師団、早坂中隊!」
人影が、
声 「丸山師団? おお! 迎えに来てくれたのか」
嬉しそうに立ち上がる人影。
木原は人影を見て、
木原「違う。俺達は残兵だ」
月明かりに照らされ、三人の影が近づいて来る。
髭がのび、南京袋(麻ブクロ)を手に持っている。
三人とも丸腰(マルゴシ)である。
木原は立ち上がり挙手の敬礼をする。
木原「早坂中隊木原猛夫少尉!」
影の兵士の一人が木原の前に進み出る。
兵士「一木支隊三上八郎上等兵です!」
三上は階級章の無いボロボロの軍装の木原を見て、
三上「・・・将校殿でいらっしゃいますか?」
木原「うん? うん」
三上「あ、失礼しました!」
木原「・・・オマエ等、三人だけか」
三上「いえ、自分等入れて十二ッス」
三上は「北海道の部隊(東北弁)」である。
木原「十二? よく生きてたな」
三上は恥ずかしそうに、
三上「飛行場の近くの穴グラに待機スてたんス。『野ネズミ』ッすよ」
木原「野ネズミ? ・・・俺達も同じ様なものだ。飛行場で川口隊が最後の突撃した事は覚えているか」
三上「ああ、雨の夜でスたね。覚えてますよ」
木原達七人と三上達三人が砂浜に座る。
三上「いや~、俺達も突っ込もう思ったんスけど武器は揃ってねえし、何スろ腹が減って、気合が入らねえんスよ」
木原「何を喰っていた」
三上「最初はネズミです。その内、たまらなくなってアメ功のテントにもぐりこみ・・・コレです」
三上が人指し指を曲げて「コソ泥」の表現する。
木原「ハハハ、考える事は皆な同じだの」
三上が(一木支隊・三上八郎上等兵・旭川第28連隊)、月に照らされた海を見ながら、
三上「・・・一木隊長殿が、敵が攻めて来た途端、通信兵に玉砕を打電させ、お先に拳銃で頭を撃ち抜いて逝っちまったんです。これじゃあ、指揮が取れる訳が有りませんよ。後に残された兵隊は、皆ばらばらにトンズラです。トンズラって云っても何処へも行く所もねえス・・・」
木原「まあ、この島じゃ一木隊長殿の方が良かったかも知れんの。生きてりゃ地獄、死ねば天国だ」
三上「ところで、少尉殿達はどうスて此処に?」
木原「エスペランサと云う岬に行くんだ」
三上「エスペランサ? この先は断崖で、ジャングルを通らなければ行けませんよ」
木原「おまえ、『エスペランサ岬』を知ってるのか」
三上「勿論です。あそこには米軍の小さな見張り台が有りまスてね。土人が日本軍の艦船を見張ってるンす。無電機を置いてね。・・・また何でエスペランサに?」
木原「『援軍』が救出に来るんだ」
三上達三人がどよめく。
三人「えッ! ほ、本当ですか。いつ?」
木原「分らない。・・・だが確実に来る」
三上「何処(ドコ)ッからの情報ですか」
木原「オマエ等に言っても分らん」
三上は改まって、
三上「 でも、それは早く皆に知らせなければ」
木原「オマエ等の部隊以外に、残兵は居るのか」
三上「まだジャングルの中に沢山居る筈です。時々、仲間が情報を持って来ますから」
木原「何! 本当か。オマエ等だけじゃなかったのか。で、この情報は全員に伝わるのか」
三上「そんな話スは直ぐ伝わりますよ」
木原「そうか。・・・俺達は此処(ココ)に当分居る。オマエ等も時々此処に来るな」
三上「勿論スよ。餌(エサ)は此処にしか有りませんからね」
木原「よし、連絡を取り合おう。その日が分ったら直ぐに伝える。残兵達全員に知らせてくれ」
三上は元気よく、
三上「分りまスた!」
姿勢を立て直し木原に敬礼をする三上。
木原「よし! 早く餌を持って部隊に戻れ」
三上「ハイ! 失礼スます」
三上達三人が急いで蓋の開いたドラム缶の食料を南京袋に詰め込む。
つづく
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