第33話 砂浜にドラム缶が

 雨上がりの砂浜。

破壊された日本の輸送船が難破している。

小さな日本軍の戦車が砲塔を飛ばされて腹を向けて横たわっている。

砂浜のあちらこちらに日本軍のあらゆる兵器のスクラップが放置されている。

不思議と日本兵の死体(骸・ムクロ)は一つも見当たら無い。

七人の野鼠達(敗残兵)を焼けつく様な夕陽が照らす。


 森 「熱いなあ・・・。水が欲しい」


突然、雲の間から米軍機(F4Uコルセア )が、編隊を解いて着陸体勢に入る。

関元曹長が叫ぶ。


 関元「あ、木原さん! 見つかります」


木原は慌てて。


 木原「林に入れ! 急げ!」


七人が砂浜を走って椰子の木陰に隠れる。

木原が空を見詰めている。


関元が木陰から木原を見て、


 関元「しかし、誰とも会いませんねえ。日本兵は俺達だけですかねえ」

 木原「俺達の連隊だけでも三千。内、上陸したのが・・・」


 暫くして椰子の木陰から七人が出て来る。

木村が砂浜を眺め、


 木村「少尉殿。この辺・・・随分、ドラム缶が流れ着いてますね」

木原が難破した輸送船を見ながら、


 木原「あの輸送船の物だろう」


木村が砂浜にドラム缶を見に行こうとする。


 木村「少尉殿、ちょっと見て来ます」

 木原「木村! 狙撃されるぞ」


木村はその言葉を無視して砂浜を走って行く。

暫くして木村が戻って来る。


 木村「報告します! ドラム缶の蓋が壊されてます」

 森 「誰かが開けたんじゃないか」


一瞬、全員が目を見合わす。


 木原「おい、木村。もう一度見て来い」

 木村「はい!」


木村は38銃を砂浜に置き、中腰でドラム缶に向かって走って行く。

木村の叫ぶ声。


 木村「あッ! 米だ。木原少尉、ドラム缶の周りに米が散らばっています」

 木原「何!」

 関元「ちょっと俺も行ってきます」


急いでドラム缶に走って行く関元。


 関元「あッ! 木原さん、食料ですよ。このドラム缶は全部、物資です!」


木原が走ってドラム缶の傍に行く。

それに続いて残りの残兵達が重い38銃を肩に、フラフラと砂浜を走って行く。

茫然とドラム缶の周りに立ちつくす木原達。


 関元「見て下さい。このドラム缶の蓋は木です」


福原が近くに放置された円匙(シャベル)を拾って、ドラム缶の蓋を叩き壊す。

中から物資が覗く。


 福原「おお! 米に缶詰め、塩に味噌、タバコに・・・あッ! 菊正(酒)に足袋、褌(フンドシ)まで。こりゃあ、俺達の為に援軍が海に投下したんですよ」

 関元「俺達は見捨てられたんじゃねえ。援軍はそこまで来てたんだ」


木原は俯いて泪を流す。


 木原「・・・よし! 頑張ろう。食料はこれで揃った。皆で帰るんだ」


福原は近くに点在する蓋の壊れたドラム缶を見て、


 福原「しかし、あの辺のドラム缶は何故、蓋が壊されているんでしょう。・・・あ~ッ! 俺達の様な残兵がまだ何処かに居るんだ。木原さん! 残兵が居ますよ。何とか会えないもんですかねえ」

 木原「一晩、此処に居れば会えるかも知れんぞ。残兵もこの食料を漁りに来てるに違いない」

 関元「よし! 決めた。今夜は此処で夜営しましょう」

                         つづく

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