第32話 エスペランサ(希望)岬へ

 ジャングルの『丸山道』を北に向かって急ぐ木原少尉達。

雨は益々、酷(ヒド)く成る。

関元曹長と大宮上等兵、河野上等兵は米軍の大きな鉄帽(ヘルメット)を被っている。


 関元「このまま行くと飛行場ですな」

 木原「うん。おい、キサマ等、弾は何発残ってる」

 関元「五発です」

 福原「四発です」

 河野「はい、・・・五発です」

 木村「自分は七発です」

 森 「五発!」

 大宮「自分のはアメ功の自動小銃ですから、結構弾は入ってるみたいです」

 森 「自分もアメリカ製です」

 木原「俺は拳銃に五発か・・・。おい、迂回しょう。野村伍長(再生兵)が言ってた『エスペランサと云う岬』に向かうぞ」

 関元「その岬って云うのは何処に在るんですか? 地図もねえのにこのジャングルの中を行ったら死にに行く様なもんですよ」

 河野「あの・・・」

 関元「何だ」

 河野「さっき日本兵のホトケさんの傍にこんなものが」


河野は油紙に包まれた図面らしき物を関元に渡す。

関元が雨に濡れない様に、樹の陰で油紙を開く。


 関元「・・・地図の様だな」

 木原「地図? おい、貸してみろ」


木原は関元から図面を取り上げる。


 木原「・・・飛行場の見取り図か?」


福原が図面を覗き、


 福原「こんなモノ、俺達の方がよっぽど詳しいじゃないですか」

 木原「おい、待て。北の矢印の先に『エスぺル・希望』と書いてあるぞ」

 関元「木原さん! もしかしたら、これがあの岬かも」


木原の雨にシブいた顔が、柔らかく歪がむ。


 木原「よ~し! 海岸を行こう。海岸なら迷う事はないだろう」

 関元「行きましょう。どうせ死んで元々だ。その内、早坂中隊のホトケ様達が迎えに来てくれるでしょう」


五名の声に気合が入る。


 「行きましょう!」

                         つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る