第29話 足を背負う兵士

 太い樹の根元で、大宮上等兵が座って「見張り」をしている。

『丸山道』の奥から、誰かを呼ぶ声が聞こえて来る。

声は徐々に迫って来る。

暫くすると上半身裸の日本兵(彷徨兵)が、杖を突いて現れる。

ヨタヨタしながら大宮の前を通り過ぎる兵士。

大宮はその兵士に声をかける。


 大宮「おい、キサマ! 何処の部隊だ」


兵士は大宮に気付か無いのか、一点を見詰めて歩いて行く。


 大宮「おい! オマエ」


ジッと男の後ろ姿を目で追う大宮。


 大宮「・・・気がフレテいるのか」


暫くすると、もう一人の兵士が後を追って来る。


 大宮「オイ、待て! キサマ等、何処(ドコ)の・・・」


この兵士も俯いて、樹の枝を杖代わりに大宮の前を通り過ぎて行く。


後ろ姿もジッと見詰めている大宮。


背中に奇妙な『骨付きの肉』を背負っている。

その肉には沢山の蠅(ハエ)がたかっている。

大宮は蠅のたかった肉棒の先を見て腰を抜かす。


 大宮「あ、・・・指だ。ひ、人の脚(アシ)だ! ア・・・アァ~~ア~・・・」


大宮は一目散にホラ穴営舎に飛び込んで行く。


 洞穴営舎では木原が横に成っている。

発狂の声と共に、ホラ穴営舎に飛び込んで来る大宮。


 大宮「ア~~~、ヒヒヒ、ヒト、ヒト」


木原は飛び起きる。


 木原「来たか!」


同時に、関元、福原、河野、森が壁の38銃とカービン銃を取る。

大宮は震えながら狂った声で、


 大宮「チチ、違います。ヤ、ヤツ等、ヒトの足を喰っています」


木原が冷静に


 木原「ヤツ等?」

 大宮「ど、どこかの日本兵です」

 関元「ニホンヘイ? 血迷ったか」


木原は急いでホラ穴営舎の外に出て行く。

それを追って全員が出て来る。

大宮はホラ穴営舎の中で気が触れた様に、宙の一点を見詰めて居る。

ジャングルの中に不気味な声が木霊(コダマ)している。 


 「オ~~~イ。・・・オ~イ・・・」


木原は関元を見て淋しそうに、


 木原「戻ろう」 


沈黙する五人。

俯きながらトボトボと『ホラ穴兵舎』に戻って行く。

木原が穴に入る前に急に振り返る。

ジャングルを見回し唇を噛み締め「不動の挙手の敬礼」をする。

木原の目からは涙が溢れ出ている。

関元達四人も木原に倣って、ジャングルに響く不気味な声の方向に『不動の敬礼』をする。

                         つづく

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