第21話 七名の生存兵

 テントの中の五名。

雨に濡れ、まるで『落ち武者』の様な形相である。

木原少尉と河野上等兵が息を荒げてテントに入って来る。

木原は関元達を見て驚く。


 木原「おお! みんな、生きていたか。・・・中隊長は?」

 関元「分かりません」


福原は耳を澄まし外の気配を聞いて居る。

テントの端を開けて、そっと外を覗く大宮。


 大宮「よく燃えてます。もう一度、突っ込みますか」


福原が気合を入れて、


 福原「よしッ、ヤルか!」


立ち上がる福原。


 木原「待てッ!」

 関元「は~?」


木原は鉄帽を置きながら、


 木原「全滅するぞ。とりあえず川口の残兵達の様子を見てからだ」


 二十時。

北側滑走路の草むらから、数十人の川口支隊の集団が『銃剣突撃』をかける。

稲妻が、雨の中を突撃して来る川口支隊の兵隊達を照らし出す。

ざわめきに気付いた監視塔の米兵が、狂声の方向に探照灯(サーチライト)を回す。

交差する探照灯の灯り。 

突然、壕の中の米兵達の銃火器が一斉に火を吹く。

雨空に揚がった照明弾。

曵光弾が蜘蛛の巣の様に地面を覆う。


 翌朝・・・。

工作車(ブルドーザー)が二台で日本兵の骸(ムクロ)を集めている。


茫然と眺めている俺(早坂再生AI兵)。


草むらに隠れ、同じ様に滑走路の工作車を眺めている早坂中隊の残存兵。


  早坂中隊の生存兵(七名)

  木原少尉

  関元曹長

  福原軍曹

  大宮上等兵

  河野上等兵

  木村一等兵

  森 二等兵


関元が情けない顔で、


 関元「全滅ですか」


木原が呆然(ボウゼン)としながら、


 木原「残ったのは俺達だけだな」


関元も放心状態で一点を見詰めている。

森 が一言。


 森 「死んだ方が良かった」


大宮は俯いて、


 大宮「死ぬよ」


苦しそうに咳き込む木村。

福原が心配そうに木村を見て、


 福原「大丈夫か?」

 木村「寒い・・・。風邪をひいた様です」


木原が心配そうに、


 木原「カゼ? しっかりせい。こんな所で風邪なんかひいたら終わりだぞ」


木村は腕を組み、体を震わせている。


 木村「大丈夫です。大した事は有りません」

 関元「・・・戻りましょうか?」


木原は関元を見て、


 木原「モドる? 何処へ」

 関元「え?・・・あの営舎に」

 木原「戻ってどうする」

 関元「まあ・・・どうしましょう」


森 が切なそうに、


 森 「腹が減ったなあ・・・」

 河野「海岸に行きましょうか。援軍が来るかも知れません」


木原が関元を見て、


 木原「どう思う」

 関元「営舎に帰っても喰う物も無いし。・・・岬に戻って魚や貝でも漁りますか」


木原は惨めに、


 木原「情けねえなあ」


福原が突然、思い出した様に、


 福原「あッ! 俺、あの時、アメ功のテントから缶詰めをカッパラッて来たんです」


福原は肩に提げた米軍の簡易袋(ショルダーバッグ)から缶詰めを取り出す。

それを見て六名が唾を飲みこむ。

木原が焦って、


 木原「いくつ持って来た」

 福原「五、六個入ってるんじゃないですか」

 河野「一日一個を七人ですか」

 木原「福原! これが有る場所は分ってるな」

 福原「そりゃあ、勿論です」


関元は木原を見て、


 関元「もう一度、突っ込みましょうか」

 大宮「曹長殿。俺、腹が減って走れません」

 木原「おい、やっぱりいっぺん営舎に戻ろう。作戦を練るんだ」

 森 「作戦? ですか」

 木原「生きる為の作戦だ」

 河野「生きるため?」

 木原「敵の食料!」


森 はようやく理解する。


 森 「あ、鼠(ネズミ)ですね」


全員が笑う。

                     つづく

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