第18話 川口支隊の残兵

 昼休み。

工作車(ブルドーザー)が六機、米軍キャンプの空き地にのんびりと置いてある。

米軍キャンプの拡声器(スピーカー)から、ラジオの音楽(カントリーウエスタン)が流れている。

戦車(M4)が椰子林の右側に一、中に一、左側に各一台、配置してある。

飛行場の四隅には見張り塔が。

塔の中の見張りの米兵が関元曹長達三人を見た様だが、気が付かない。

張り巡らされた壕の中で、米兵達が寝そべっている。

鉄板滑走路の隅に戦闘機(F4Uコルセア)が四機、整然と並んで待機ている。


 野々宮「アメ功の野郎、やけに油断してますね」

 関元「ヤツ等は時間で戦争してるんだ」


野々宮は感心して、


 野々宮「ほう。時給ですか。良いなあ」


 突然、頭上に軽飛行機のエンジン音が。

草陰から空を見上げる関元・市村・野々宮。

上空から偵察機(セスナ機)が着陸体勢に入る。

市村は悔(クヤ)しそうに偵察機を見詰めて、


 市村「・・・あの野郎だ。曹長殿! まずあのトンボをぶっ壊しましょう」

 関元「焦るな。俺が此処から戻る時、ぶっ壊してやる」

 市村「オレがって、一人でですか? 大丈夫ですか」

 関元「一人の方が目立たねえよ」

 野々宮「しかし、あれだけぶっ壊したのに、もうあんなに滑走路が延びてらあ」


関元と市村が感心した様に滑走路を見ている。


 三人が滑走路を横断する機会を窺(ウカ)がっている。

関元は双眼鏡を覗いている。


 関元「おお? 向こうの林からこっちを見ている兵隊が居るぞ」

 市村「アメ功ですか?」

 関元「・・・いや。手を振っている。あッ! 川口の兵隊だ。俺達に気が付いたんだ」


 滑走路の中ほどで野村再生兵が手招きをしている。


 関元「あ、あれは野村伍長殿だ。よし、俺が行って来る。もしもの時は市村、野々宮、援護してくれ」

 市村・野々宮「はい」


二人は38銃とカービン銃を壕の方へ向けて狙いを定める。

気合いを入れる関元。


 関元「よ~し、行くぞッ!」


関元が中腰で、一目散に陽炎(カゲロウ)が燃える鉄板滑走路を走って行く。

関元はうまく渡り切って、林の中に消えて行った。

 暫くして、また野村再生兵が滑走路の中程(ナカホド)から林の中の関元に手招きをする。

関元は中腰で滑走路を走って戻る。

米兵達は全く気付いてない。


 市村「どうでした?」

 関元「川口の連中は今夜の二十時に突撃をかけるらしい。もし俺達がヤルのなら、その三十分前に突撃をかけて欲しいとの事だ」

 市村「十九時三十ですね」

 関元「そうだ」

 野々宮「川口は何人残って居るんですか?」

 関元「向こう側で見張ってる兵士は八名、他に二二名が突撃の時間を待っている。そのほか本隊が北の高地に陣を構えて居るそうだ」


野々宮は驚いて、


 野々宮「本隊は北の高地に? そんなに残って居るのですか! いったい何を喰っていたんでしょう」

 関元「俺達と同じモンだろう。そんな事よりオマエ等二人は先に戻って中隊長に知らせて来い」

 市村・野々宮「はい!」


関元は手帳から書き取った飛行場の「見取り図」を一枚破り、市村に渡す。


 市村「これを持って行け。それから、北側の林付近の配備が手薄だと川口の将校が言っていた。俺達の中隊は、さっき話した様に十九時三十に先行突撃する。その時、戦車と戦闘機、ブルドーザーを破壊してくれと言う事だ。忘れずに伝えろ。 俺はちょっとあのトンボをブッ壊して来る」


市村が心配そうに、


 市村「本当に一人でやるんですか」

 関元「大丈夫だ。俺には佐々木准尉殿達が憑いてる」

 野々宮「ホトケサマですよね」


関元が怒って、


 関元「違う。あれは『幽鬼兵』だ!」

 野々宮「あ、すいません! 幽霊でした。じゃ、行きます」 

 関元「気を付けろよ」

 野々宮・市村「はい!」


市村と野々宮が走ってジャングルの中に消えて行く。

暫くして手榴弾の炸裂音がする。

市村と野々宮が足を停めて音の方角を見る。

飛行場の方から黒煙が立ち昇る。

突然、重機関銃の乱れた音が。


 野々宮「関元さん、やりましたね」

 市村「うん。無事に戻って来れば良いが」

 野々宮「大丈夫ですよ。佐々木准尉殿と野村伍長殿が憑(ツ)いてますから」


市村と野々宮は急いで中隊に戻って行く。

                          つづく

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