第17話 再度の突撃

 食後、早坂中隊長と木原少尉がホラ穴営舎で話をしている。


 木原「敵の戦闘機は相変わらず飛行場に飛んで行きますね」

 早坂「この間、あれだけブッ壊したのにのう」

 木原「もう一度、やりますか」

 早坂「しかし、この兵力じゃのう。これ以上の犠牲は出せんぞ。・・・くそー。援軍はどうなってるんだ」

 木原「食料も尽きたし・・・。このままでは飢え死にを待つだけです」


早坂がボソッ一言。


 早坂「この島に、友軍はどの位い残っているんだろう」

 木原「三回目の上陸ですから、相当数の残兵が何処かに隠れていると思います・・・」


早坂が独り言を言う。


 早坂「餓死か。・・・前門の敵、後門の餓死・・・」


早坂は背伸びをして、何かを決断したように、


 早坂「よ~し、もう一発カマシテやるかッ!」

 木原「ですね。少しでも敵の攻撃を遅らせて本土の生産を上げなければ」

 早坂「木原、兵を集めろ」

 木原「はい!」


木原がホラ穴兵舎から出て行く。

木原は外で寛いでいる関元を見て、


 木原「関元!来い」

 関元「はい!」


関元が木原の前へ駆け寄る。


 木原「二人付けて斥候に行ってくれ」

 関元「斥候? ハイ。・・・何処(ドコ)へ」

 木原「飛行場だ」


関元は納得したように木原を見て、


 関元「・・・ヤリますか」

 木原「うん。キサマ達が戻り次第、再度突撃をかける。手薄な所を見付けて来い」

 関元「ヨッシャ!」


関元が樹の根元に寛ぐ兵士達の所へ行く。


 関元「市村、野々宮! 俺に付け。これから飛行場に斥候に行く」

 市村「飛行場?」

 野々宮「斥候!?」

 関元「そうだ。 もう一発、カマす」

 市村「よ~しッ! やりましょう」


市村の気合いが入った声。

市村と野々宮は急いで軍装を整える。

暫くして、関元、市村、野々宮の三人がカービン銃と38銃を担いで、ジャングルの中に消えて行く。


 昼、西端の椰子の木陰から、関元、市村、野々宮の三人が飛行場を窺(ウカガウ)っている。

米兵達が裸でテニスをしている。

市村と野々宮が木陰から顔を出す。


 市村「良い気なもんだ」


関元は双眼鏡を覗き、手帳に敵の配置図を描き取って行く。

と、関元が背後に『妙な気配』を感じ振り向く。

佐々木再生兵と野村再生兵が立っている。


 関元「あ! 佐々木准尉」


関元は立ち上がろうとうする。


 佐々木再生兵「動くな! 敵に見つかるぞ」

 関元「あッ、はい」


市村と野々宮は佐々木再生兵達を見て気味悪そうに、


 市村・野々宮「ご、ご苦労様です」


佐々木再生兵と野村再生兵が優しい笑顔で三人を見る。


 佐々木再生兵「安心しろ。俺達がキサマ達を見取ってやる」

 市村「ミトル? 俺達はやられるんですか」

 佐々木再生兵「それを聞いてどうする」

 市村「・・・そうですね」

 野々宮「曹長、あの小屋の後ろ、・・・樹の陰に人影の様な物が見えるんですが」

 関元「何?」


関元は急いで双眼鏡の焦点を合わす。


 関元「あれ?・・・あれは・・・友軍だ」

 佐々木再生兵「そうだ。先発の川口支隊の生き残りだ」

 関元「え! カワグチの残兵?」

 佐々木再生兵「あちこちに散って遊撃戦(ゲリラ)を仕掛けている」

 関元「そうですか。この辺に強行した兵隊達は皆やられたと思いました」

 佐々木再生兵「俺達が来るのを待っていたのだ」


関元は佐々木再生兵を見て、


 関元「俺達の来るのを? ・・・糧秣も尽きている筈なのに、よく生きてましたねえ」

 佐々木再生兵「うん? うん。突撃をかけるつもりか」

 関元「はい」

 佐々木再生兵「向こうの川口の残兵と一緒にやれ。早坂中隊だけでは死にに行く様なものだ」

 関元「え? あ、はい」

 佐々木再生兵「北側の尾根を回れ。北の尾根は滑走路に面しているから守りは手薄だ」


関元が尾根に双眼鏡の焦点を合わす。


 関元「ああ・・・成るほど。分りました」

 佐々木再生兵「気を付けろ。『赤い旗』の所は地雷原だからな」

 関元「アカイハタ?」


関元はまた双眼鏡の焦点を合わす。


 関元「赤い旗、アカ・・・成るほど。有難う御座います」


関元と市村と野々宮は佐々木再生兵と野村再生兵に軽く敬礼をして、急いで北の尾根に向かう。

                         つづく

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