第16話 銃声に合掌

 早坂中隊長の傍で関元曹長が指揮を取り、ブタを解体している。

佐籐がイモ袋を担いでホラ穴営舎から出て来る。

兵士達は久しぶりの「贅沢」に眼の色が変わっている。

佐籐が元気よく、


 佐藤「イモを持って来ましたッ!」

 兵士達「おお、トン汁、トン汁。 ハハハハ」


嬉しそうな兵士達。

イモを切る兵士。

肉を刻む兵士。

飯盒を提げて水を汲みに行く兵士。


 森 「おい、何処かに塩はねえかなあ」

 木原「営舎に有るぞ。俺の背嚢の右側だ。持って来い」

 森 「えッ、よろしいんですか」

 木原「構わん。一心同体だ」


森はジッと木原を見詰め、


 森 「・・・木原少尉殿の部下で光栄で有ります!」

 木原「キサマ、調子が良いぞ」


兵士達が爆笑する。


 早坂「今日は腹いっぱい食え」


森は泪を浮かべて、


 森 「はいッ!」


急いでホラ穴営舎に塩を取りに行く森 。


 早坂「関元! 火を熾(オコ)せ」

 関元「はい!」

 早坂「煙は出すなよ」

 関元「勿の論です」

 西山「あ〜あ、コレで酒でも有ったらなあ~」

 木原「コラ! 調子に乗るな。此処は最前線だぞ」


兵士達が爆笑する。


 突然、ジャングルの中に銃声が響き渡る。

河野が急いで38銃を取る。


 河野「・・・敵か!」

 福原「?・・・あれは『短銃』の音だ」


兵士達が顔を見合す。


 森 「もしかしたらあの兵隊・・・」

 木原「あの兵隊?」

 森 「住吉部隊の戦車兵です」

 西山「センシャヘイ?」

 森「はい。・・・アイツ・・・ヤッタな」

 木原「自殺か?」


渡辺は森 を見て、


 渡辺「オマエが会ったと云う兵隊か?」

 森 「多分な。小便を垂れ流していたから、最後の力で引き金を引いたんだろう」


森 は銃声の方向を向いて立ち上がり、深く頭を下げて合掌する。

それを見て早坂、木原、西山、河野、渡辺、その他の全員の残兵が起立して合掌する。


 河野「まあ、いずれ俺達もああ成るんだ」


兵士達は何も無かったかの様に朝飯の準備を進める。

あちこちで笑い声が起こる。

久しぶりにタンパク質を摂(ト)ったせいか、顔色が桃色に変わっている。

                     つづく

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