第13話 兵士が減らない

 戦闘が終わり、兵士達が息絶え絶えにジャングルの中を避難して来る。

砲撃はまだ続いている。


 暫くして、砲撃が止む。

茂みからそっと顔を出す早坂中隊長と木原少尉。

静まり返るジャングル。

月明かりの中、硝煙が漂う。

兵士達の鉄帽が所々に見える。

早坂が小声で、


 早坂「おい、皆んな集まれ」


木原も声を繋ぐ。 


 木原「集まれ・・・」


散開した兵士達が小声で声を繋いで行く。


 兵士達「集合・・・集まれ・・・。集合・・・シュウゴー」


早坂の周りに木原と兵士達が身体(ミ)を低くして集まって来る。

兵士達の軍装は爆裂の凄(スサ)まじさでボロボロである。


 早坂「各自、隣の兵を確認しろ!」

 兵士達「はい!」

 早坂「全員居るか?」

 兵士達「ハイ、居(オ)ります」


早坂は驚いて


 早坂「何? 全員居る?・・・佐々木!」

 佐々木再生兵「はい! 此処に居ます」


佐々木再生兵の軍装は上陸当時と変わってない。


 早坂「 オマエ、まだ生きているのか?」

 佐々木再生兵「死にません!」

 早坂「シニマセンて、そんな~・・・」


木原は不思議そうな顔で佐々木再生兵を見詰める。


 早坂「キサマは何者だ」


佐々木再生兵は黙って居る。


 早坂「で、野村は」

 野村再生兵「はい! 居ります!」

 早坂「居(オ)る?」


上陸当初の軍装と綺麗な鉄帽(ヘルメット)の『野村再生兵』。

早坂は気持ち悪そうに野村再生兵を見て、


 早坂「オマエは・・・」


野村再生兵が、


 野村再生兵「はい。生き返りました」

 早坂「イキカエッタ?」

 野村再生兵「もう、死にません」

 早坂「モウシナナイって。そんな・・・」


早坂は集まったボロボロの軍装の残兵達を見る。

山本再生兵の軍装も汚れてない。


 早坂「おい、山本。キサマあの時、腹を撃たれたな」

 山本再生兵「ハイ! でも、大丈夫であります」

 木原「ダイジヨウブデアリマス? いや、オマエはあの時、絶対にやられた筈だ!」

 山本再生兵「でも、・・・生きてるんです」

 早坂「どう云う事か! 説明しろ」

 山本再生兵「分りません! ただ・・・」

 早坂「ただ、何だッ!」

 山本再生兵「ハイ!・・・ 生き返りました」


木原は二人を見て、


 木原「そんなバカな」


早坂はもう一度、『佐々木再生兵』達の顔を見て、


 早坂「佐々木、・・・やっぱりキサマ等は化け物だ!」

 佐々木再生兵「化け物じゃありません。死ねないのです」


木原は不気味そうに、


 木原「死ねない? ナンダ、それは」

 佐々木再生兵「私達は幽霊に成りました。たぶん早坂中隊の兵士達には仏の影が憑いているのでしょう」

 木原「ホトケのカゲ?」

 佐々木再生兵「亡くなった戦友達の魂です」


木原は怪訝な顔で佐々木再生兵と生き返った『再生兵達』を見る。


 木原「俺達は守られているとでも云う事か?」

 佐々木再生兵「違います」

 木原「違う?」


佐々木再生兵が訥々と喋り始める。


 佐々木再生兵『兵隊達は目的を完遂する為にこの島に送り込まれたのです。上陸して敵も見ず、戦いもせず銃弾や砲弾に倒れるなんて不条理じゃないですか。そんな絶望を求めて兵隊に成ったのでは有りません。我々は何の為に生れて来たのですか。たとえ戦争に反対しても、現実は戦時下に生み落とされたんです。これは宿命です。宿命で生み落とされたなら祖国の為に戦果を上げ、命令を完遂する事は兵隊としての義務であります。死しても七度生き返って朝敵を討つ! その気概を持たなくては戦に勝てません。国に残した家族に申し訳が立たないのであります』


早坂は腕組をして怪訝な顔で佐々木再生兵の話を聞いている。

そして怒った様に、


 早坂「キサマッ!・・・キサマは佐々木准尉なのかッ!」


佐々木再生兵は微動だにせず、


 佐々木再生兵「ワタシは・・・。私は佐々木 誠であります!」


佐々木再生兵が怒鳴(ドナ)る。

早坂と木原は、軍装の整った再生兵達を信じられない表情で見詰めている。

早坂は残兵を見回し、


 早坂「おい、この中で幽霊でない者は挙手をしろ」


ボロボロの残兵達十七名が手を挙げる。


 早坂「これだけか。残りの兵隊は幽霊だと云う事なのだな・・・」


早坂は残りの七基の『再生兵』を見て、


 早坂「俺はキサマ達を対等に扱っても良いものか・・・」

 佐々木再生兵『残った兵隊達もおそらく幽霊に変わって行くでしょう。我々は少しでも長くこの飛行場から敵の航空機を出撃させないように時間稼ぎをします。もし、この中隊の誰かが、生きて故国に帰れたら、我々が如何(イカ)に、このガダルカナル島で戦ったかを家族に伝えて下さい』


早坂は佐々木再生兵をジッと見て、


 早坂「・・・我々はもう、キサマ達の様な神仏の力を借りなければ勝てないと云う事か・・・」


早坂の眼から涙が滲み出て来る。

そして何かを決断した様に、唇を噛みしめて、


 早坂「よしッ! 頼む。キサマ等の力を貸してくれ」

                         つづく

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