第8話 増える再生兵

 早坂中隊長の号令。


 早坂「此処で夜営をする。各自、糧秣(リヨウマツ)を出せ」 


兵士達は背嚢を解いて、早坂の前に糧秣を並べ始める。

並べられた糧秣を見てため息を吐く早坂。


 早坂「・・・兵が十八でこれだけか。これからは喰う事も戦いだな」


最後に糧秣を置いた渡辺が、


 「戦って死ぬか、空きっ腹で餓死するか」


その言葉を聞いて早坂は怒る。


 早坂「バカ者! キサマ、気合が入っておらん。前へ出ろ!」

 「はい!」


渡辺が一歩前へでる。

早坂は渡辺に平手打ちで喝(カツ)を入れる。

ふらつく渡辺。


 渡辺「すいませんッ!」

 早坂「今日は今日、明日は明日だ! 一日一日を精一杯生き抜く。死して百鬼と成り朝敵を討つ!」

 渡辺「はいッ!」


兵士達の気合いの入った返事が返って来る。


 草原に三名の日本兵と二名の米兵の死体が転がっている。

一名の米兵の死体は小さな『背嚢』を背負っている。

背嚢の蓋が開き、中の食糧が散らばっている。

藪や岩陰に隠れてジッと死体と『食糧』を見ている兵士達。


 早坂「おい、佐々木」

 佐々木「はい!」

 早坂「此処に来い」


佐々木は背を低くして早坂の傍に来る。

妙に静まりかえった草原。

早坂は横たわる敵と味方の骸を見ながら、


 「どう思う」

 「・・・罠(ワナ)かも知れません」


早坂は暫く考えている。


 佐々木「先に行って見て来ます」

 早坂「待て。右に三、左に三、廻せ」

 佐々木「あッ、はい!」


佐々木は指で兵士達に合図する。

六名の兵士が右と左に匍匐で配置に着く。

佐々木は背を低くして死体に向かう。

死体から五メーターほど近づいた瞬間、

『爆発』が起こる。

早坂が驚き、


 早坂「地雷だッ!」


硝煙が消える。

佐々木が見える。

佐々木は片足を飛ばされて、上半身だけで必死に後退している。

右側面の鈴木が急いで佐々木を助けに走る。

するとまた爆発が起こる。

鈴木も片手と片足が飛ばされる。

鈴木は負傷して身動きが取れない。

地上の煙を見付け、米軍の偵察機が上空を旋回し始める。

早坂が叫ぶ。


 早坂「砲撃が始まるぞ、撤収! 撤収~ッ」


兵士達は我先にと逃げる。


二基の鉄帽の魂が佐々木と鈴木の傍に立つ。

鉄帽の魂は佐々木の飛ばされた足に触れる。

鉄帽の魂は佐々木の足に変化し、佐々木は『再生』された。

もう一基の鉄帽の魂が鈴木の体に触れる。

鈴木の手と足は『再生』されてた。

岡田の下半身が無い。

一基の鉄帽の魂が岡田の下半身に触れている。

下半身は『再生』されている。

立ち上がる『岡田再生兵』。


三基共、軍装は新しいモノに変わっている。

三基は何も無かったかの様に砲弾の中に消えて行く。

 草原に「殻の鉄帽」が三個、転がっている。


 数分間の砲撃が終わる。

散らばって頭を抱えている兵士達。

早坂が穴から顔を出し周囲を見回す。


 早坂「おい、野村。大丈夫かッ!」


野村が穴から顔を出す。


 野村「大丈夫です」

 早坂「兵を集めろ」

 野村「はい。集合、集合~!」


早坂の周りに集まる十四名の兵士達(内、一個は濱田再生兵)。

早坂が叫ぶ。


 早坂「負傷兵は居ないか」


高橋軍曹が、


 高橋「隊長! 岡田が居ません」

 早坂「何! おい、誰か岡田を見た者は居ないか」

 河野「確か、俺の後ろに居た筈ですが」

 高橋「オマエの後ろ? やられたか」


兵士達の形相は空腹でヤツレ、軍装は破れて汚れている。

早坂は俯(ウツム)いて、


 早坂「クソ~、佐々木もやられたか・・・」


気を取り直して、


 早坂「よし。とにかく飛行場に行こう」


兵士達は気合の入った声で、


 兵士達「はい!」


 野村が太陽を見上げて地図と見比べている。


 野村「・・・中隊長殿」

 早坂「何だ」

 野村「変な事を言ってもよろしいですか?」

 早坂「ヘンナコト?」


野村は早坂に近付き、図嚢を開いて地図を見せる。


 野村「あの・・・、前から変だなあと思っていたんですが。この島の太陽・・・」


早坂中隊長は夕陽を見上げる。


 「うん? あれ~・・・? あッ、そ~うか。ここは南半球だ。俺達は北に進んでるんだ。と言う事は・・・この地図はこう見るんだ」


早坂が地図を回す。

野村を見て、


 早坂「バカ者! 何故、それを早く言わないかッ!」

 野村「いえ、ま、はい!」

 早坂「おい! こっちだ」


早坂は目指す方向を指差す。

また後戻りし、足を急ぐ早坂。

陽がだいぶ傾く。

前方、ジャングルの先に山が見えて来る。

野村の騒ぐ声が、


 野村「隊長、山です! 山が見えます」

 早坂「よし! アレだ。あの山の下に飛行場が在る。頑張れ! もう直ぐだ」

 野村「はいッ!」


シンガリの斎藤が早坂の傍に駆け寄り『妙な事』を言い出す。


 斉藤「中隊長殿。自分の後ろを誰かが付いて来る様な気がするんです」

 早坂「何! 敵か?」


早坂は立ち止り兵士達に手で散開の合図をする。

兵士達は木陰に隠れ、38銃を構える。

『三名の兵士?』が早坂を追って来る。

早坂と兵士達は眼を疑う。


 早坂「サ、佐々木? 鈴木と岡田?・・・」


早坂中隊長が木陰から出て来る。

気持ち悪そうに、


 早坂「佐々木、・・・オマエ生きていたのか? キサマ等あそこでヤラレタんじゃないのか? まさか・・・幽霊・・・」


『佐々木再生兵』と『鈴木再生兵』、『岡田再生兵』が早坂の前まで来て挙手の敬礼をする。

全員、軍装が汚れてない。


 佐々木「遅れてすいません」

 早坂「遅れた?」


早坂の兵士達が呆気に取られて「三名?」を見詰めている。

野村が三名?の足を見て、


 野村「足は有るな。オマエ等・・・生きているのか?」

 佐々木「この通り。元気です」

 早坂「そんなバカな。俺は『はっきり』見たぞ。あの時、オマエ達は手や足を地雷で飛ばされた筈だ」


早坂は『佐々木・鈴木・岡田の三基の再生兵』の全身を舐めるように見て、


 早坂「・・・どうなってるんだ?」

 佐々木「くっ付いてしまいました」

 早坂「クッ、クッツイタ!? バカ言ってるんじゃない! キサマ達は幽霊か?」

 鈴木「そうかも知れません。死にません! いや、死ねません」


早坂は気持ち悪そうに、


 早坂「シネナイ?、??」

                         つづく

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