第7話 濱田再生兵の誕生

 藪の枝の折れる音がする。

佐々木准尉・関元曹長・井上二等兵達が急いで散開、38銃を構える。

人影が見える。


 佐々木「敵か? ・・・ヤマ」

 声「カワ!」


佐々木は藪の中からそっと顔をだす。

河野上等兵であった。

二人は驚いた形相で見詰め合う。


 河野「准尉殿・・・」

 佐々木「? 河野じゃないか。いったい どうなってるんだ」

 河野「?? 先行隊が後ろに?」

 佐々木「いや、キサマ達が前に居るんだ。中隊長は?」


早坂中隊長が木陰から出て来る。


 早坂「此処だ」


佐々木が驚いて、


 佐々木「えッ! こ、これはどう云う事でしょう」

 早坂「俺が聞きたい。完全に迷ったな」

 佐々木「先ほど伝令を二人、後方に下げさせたんですが」

 早坂「デンレイ? 二人は何処に行ったんだ?」


突然、後方で自動小銃の音が。


 佐々木「あ!」


佐々木以下六名が急いで音の方向に走る。

早坂中隊長達八名も佐々木を追って猛然とジャングルを走って行く。

一人の日本兵が倒れている。

肩の辺りから大量の出血をしている。

もう一名は果敢に応戦している。

米兵達が正面のヤシの木陰に対峙している。

佐々木達五名が米兵達の背後に回る。

早坂以下八名は米兵達の前面と側面に配置する。

38銃が一斉に火を拭く。

三名の米兵が一瞬にして倒れる。

一名の米兵が一目散に逃げる。

佐々木がジャングルの中を猛然と追いかけて行く。

暫くして38銃の銃声が。

佐々木が急いで負傷した兵士の傍に戻る。

『濱田上等兵』であった。

大宮上等兵が負傷した濱田の前に茫然と立ちつくしている。

濱田の傍に一基の『鉄帽の魂』が跪(ヒザマズ)く。

鉄帽の魂が濱田の左肩の傷に触れる。

濱田は暫く倒れていたが何も無かったかの様にムックリと起き上がる。

周りには大量の血が溜まっている。

不思議と濱田上等兵の「軍装は新しい物」に変わっている。

佐々木は呆気に取られて濱田を見ている。


『濱田再生兵の誕生』である。


 佐々木「オマエ、・・・今やられたんじゃないのか?」 

 濱田「やられました。でも?」


濱田再生兵は自分の左肩を右手で確認するように、


 濱田「・・・大丈夫です」


信じられない顔の佐々木が、


 佐々木「オマエは?」


濱田の足元に『殻の鉄帽』が転がっている。

自分とオガタは顔を見合わせて笑った。


上空にトンビの様な米軍の偵察機が旋回し始める。


 佐々木「おい! 早く此処を引き上げよう。中隊長~!」


早坂が叫ぶ。


 早坂「撤収~! 退避ーッ! 散開~、散~開!」


兵士達が蜘蛛の子を散らしたように逃げる。

突然、空気を引き裂くような音が。

必死に走る河野。

森 が銃を落とす。


 森 「あッ!」


急いで銃を取りに戻る森 。

銃の周囲に砲弾が炸裂する。

森 は諦めて丸腰で一目散に避難する。


砲撃が終わる。

早坂中隊の兵士達がモグラの様に藪や窪みから顔を出す。


 早坂「大丈夫かーッ!」


あちこちから兵士の声。


 声 「はい! はい! 異常なし!」


早坂が佐々木を呼ぶ。


 早坂「佐々木ーッ!」


佐々木が走って早坂の傍に来る。


 佐々木「はい!」


早坂は苦笑いをしながら、


 早坂「銃を失くした」


佐々木は早坂を見て、


 佐々木「エ~!?」

 早坂「キサマの銃を貸してくれんか」

 佐々木「ソ、それは。困ります」

 早坂「まあ、良い。短銃が有る。おい、集合を掛けろ」

 佐々木「はい。 集合~ッ、集まれ」


兵士達が早坂の周りに集まって来る。

三名の兵士が銃を失くし丸腰である。

早坂が三名を睨(ニラ)み、


 早坂「何だ、そのザマは」


三名が俯いている。


 早坂「仕方が無い。敵の銃を奪え。とにかくやられるなよ」

 三人「はい!」


佐々木が、


 佐々木「・・・行きますか」

 早坂「よし、散開して前進だ。目標、飛行場ッ!」

 兵士達「は!」


兵士達は気合いを入れてジャングルの中に消えて行く。

佐々木が周囲の景色を見ながら、


 佐々木「中隊長・・・」

 早坂「何だ」

 佐々木「山が見えて来ないのですが」

 早坂「ヤマ?」

 佐々木「地図上から云うと、この右側に山が見えなければ」


早坂は佐々木に近づき地図を覗く。


 早坂「・・・今、何処に居るんだ?」

 佐々木「多分この辺だと思うのですが、・・・分りません」

 早坂「分らない? また迷ったと云う事か、バカ者が!」

 佐々木「はい」

 早坂「・・・波の音が聞こえないなあ」


早坂は腕時計を見て、


 早坂「此処で夜営か・・・。上陸から何日経った」

 佐々木「六日目です」

 早坂「もう、糧秣も尽きて来たなあ・・・」

 佐々木「はい」

 早坂「おい、兵を集めろ」


佐々木を先頭に兵士達が早坂の周りに集まって来る。

                         つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る