第6話 早坂中隊の再編

 早坂中隊長、高橋軍曹、野村伍長、河野上等兵、菅井上等兵が岩陰に集まり話をしている。

早坂は溜息まじりに、


 早坂「そうか。児玉中尉はやられたか」

 菅井「はい・・・」

 早坂「仕方が無い。全部で十八名か・・・。よし、児玉隊を早坂中隊に入れて部隊を再編しよう」


そこに一人の『将校』が早坂の前に歩み寄る。


 将校「失礼します!」


挙手の敬礼の将校。

早坂は将校を見て、


 早坂「うん? キサマは」

 将校「児玉中隊・佐々木 誠准尉です!」

 早坂「ジュンイ? キサマが指揮を取って来たのか」   

 佐々木「はい! 報告しますッ! 児玉中隊は西海岸に上陸、東方向に突進、途中、相当数の敵と遭遇、中隊の四十は、児玉中隊長以下三一が戦死、佐々木他九名が戦闘中ジャングルに迷い、斥候を出し道を探りつつ此処に辿り着きました!」

 早坂「・・・大変だったのう」

 佐々木「いえ。・・・はい」

 早坂「よし。キサマ等の部隊を本日より早坂中隊に再編する。下に付け!」

 佐々木「はい!」

 早坂「・・・実は俺達も迷ってしまったのだ。どうやら反対方向に突進していたらしい」


佐々木は驚き、


 佐々木「は?」

 早坂「あの見えた砂浜は東の様だ。俺達の上陸した西海岸は逆だ」

 佐々木「何ですって? こんなに兵を消耗して・・・、飛行場とは逆の方向に進んでいたと言うのですか?」


早坂は髭を擦りながら、


 早坂「うん?・・・うん。・・・仕方が無い。もう一度、出直しだ」


ニンマリと笑う早坂。

佐々木は怒り、


 佐々木「そんな・・・。死んだ兵士達は、犬死にだったと云うのですか!」


早坂も怒り、


 早坂「うるさい! 俺達の部隊もこれだけに成ってしまったんだ。もうこれ以上、犠牲はだ出さない!」


佐々木は諦めた様に、


 佐々木「・・・分かりました」


早坂は佐々木を睨み、気合いの入った声で、


 早坂「佐々木准尉、兵を整え出発の準備をしろ」

 佐々木「はい」


十六名の残兵達が早坂中隊長と佐々木准尉の前に整列している。


第2師団仙台若松歩兵29連隊・岸本部隊(早坂中隊)

  ○早坂崇雄(陸軍大尉)

   高橋竜吉(陸軍軍曹)

   野村晋介(陸軍伍長)

   菅井信次郎(陸軍上等兵)

   佐籐 勇(陸軍上等兵)

   河野源太郎(陸軍上等兵)

   岡田卓巳(陸軍一等兵)

   森 秀雄(陸軍二等兵)

   渡辺悟一(陸軍二等兵)


第2師団新発田歩兵16連隊・松岡部隊(児玉中隊)

  ○佐々木誠(陸軍准尉)

   関元雄三(陸軍曹長)

   福原源次(陸軍軍曹)

   斎藤順次郎(陸軍上等兵)

   大宮 滋(陸軍上等兵)

   濱田健作(陸軍上等兵)

   浅田菊雄(陸軍一等兵)

   鈴木平蔵(陸軍一等兵)

   井上博道(陸軍二等兵)


 ジブン(日下勇作)は早坂中隊長の「影」に、オガタ(緒方善吉)は佐々木准尉の「影」に憑(ツ)いた。

他の『魂』は再編された混成部隊の兵士達の『影』に憑(ツ)いている。


兵士達は散開しながら、もと来たジャングルを引き返して行く。

空中に米軍の「偵察機」が淋しげな音を立て飛んで来る。

兵士達は急いで木陰に身を潜める。

所々に日本兵と米兵の死体(骸)が転がっている。

藪(ヤブ)の奥の樹の根元に、米兵と日本兵が刺し違えたまま跪(ヒザマズ)いて死んでいる。

その近くの樹の株に米軍の鉄帽を被って座っている兵士が見える。

佐々木は敵兵かと思い38銃を構えそっと近づく。


 佐々木「おい・・・」


俯いた無言の兵士。

佐々木は銃先で兵士の鉄帽を上げ、顔を覗く。


 佐々木「日本兵か。・・・死んでいる」


佐々木は兵士の瞼を親指でそっと瞑ツムらせる。

と突然、『その死体?』は眼を見開き不気味な笑いを浮かべる。


 佐々木「あッ! キサマ、生きているのか! おい、しっかりしろ!」


その兵士は佐々木を見詰めて、


 兵士「フフフ、ハハハハハハハハ。へへへ、ハハハハハハ・・・」


佐々木は驚いて後退(アトズサ)りをする。


 佐々木「コ、コイツ、気が触れてる」


遠くで軽機銃の音がする。

友軍の機銃音である。

木陰に潜む兵士達が全員が銃声の方角を指で示し、


 声 「急げ、残兵が居るぞ」


暫くすると上空に米軍の「偵察機」が弧を描く。

数分して、凄まじい砲音が聞こえて来る。

畳、一畳に数発の砲弾が着弾、炸裂する。

機銃音はたちまち聴こえなくなる。

早坂は佐々木に指を四本開いて、人差し指でジャングルの方向を指さす。

佐々木は右手を上げ了解する。

兵士達指で示し、合図を送る。

暫くして佐々木達五名が走って先行センコウして行く。


佐々木の周りに集まった元児玉中隊の残兵八名(関元曹長・福原軍曹・斎藤上等兵・大宮上等兵・濱田上等兵・浅田一等兵・鈴木一等兵・井上二等兵)。

佐々木が関元に、


 佐々木「昨日の倍は進んでる筈だが、波の音は聞こえるか?」

 関元「・・・聞こえません」

 佐々木「おかしいなあ・・・。あの日、中隊が進んだ時は波の音が聞こえていた。この道で間違いないか?」


大宮上等兵が、


 大宮「准尉殿、山が見えませんねえ」


佐々木は写し取った地図を開く。

兵士七名が地図を覗く。

佐々木准尉が、


 佐々木「今、この辺に居るのかな?」


井上二等兵が、


 井上「いや、この辺なら山が見える筈です」

 濱田「この写した地図が間違っているんでしょうか。また迷ったか?」


と、濱田上等兵。


 佐々木「おい。大宮と濱田! 部隊に戻ってもう一度、地図を確認して来い」

 二人「はい!」

 佐々木「結んだ手拭テヌグイの切れ端を辿って行け。絶対やられるなよ」

 二人「はい!」


大宮、濱田がジャングルの中に消えて行く。

佐々木はため息を吐き、もう一度、方位計コンパスを地図に当てる。


 佐々木「・・・いったい、どうなってるんだ」


関元曹長が、


 関元「そうですねえ」

 井上「飛行場に辿り着けるんでしょうか」


と井上。

                         つづく 

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